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スーダンの水事情

スーダンの多様な自然-ナイル川の中州

1-10-1. 調査対象河川

通常、河川は上流から下流にかけて、浸食、運搬そして堆積作用により独自の地形を形成する。特に中洲や三角洲は河川の堆積作用により下流域に発達し、河川長の短い日本の河川ではこの傾向が特に顕著である。しかしながら、世界最長のナイル川には河口から2000km以上の中流域に、数多くの中洲が分布している。

表1には、調査対象であるナイル川本流及び支流の区間距離を示している。例えば、エジプトとスーダンの国境にはワディ・ハルファがスーダン最北部の都市として位置している。ナイル川河口からこのワディ・ハルファまで1460km、同じく河口からハルツームまでは2848kmもある。さらにナイル川本流と合流するアトバラ川からエチオピア国境まで720km、ハルツームからエチオピア国境の青ナイル川までは672km、ハルツームから南スーダン国境の白ナイル川までは496kmと、どの河川も日本の河川とは比較にならない程の河川長を有している。

河川名区間距離 (km)
ナイル川本流河口ハルツーム2,848
河口ワディ・ハルファ1,460
ワディ・ハルファハルツーム1,388
ワディ・ハルファMeroweダム740
アトバラ川ナイル川合流地点エチオピア国境720
青ナイル川ハルツームエチオピア国境672
白ナイル川ハルツーム南スーダン国境496
ハルツームゲジーラ・アバ島280

一方で、スーダンから北部のナイル川に関しては、1970年にAswan Highが完成したことにより、肥沃な土壌が河口の三角州まで運搬されることが極端に減少している。これに対し、エジプトとスーダンの国境地帯には、広大なナセル湖に「新たな三角州」が形成されつつある。このことを予測して、スーダンが国境線をエジプト側に突起状に策定したのかどうかは明らかではないが、この事実は意外と知られていない(写真2参照)。ちなみに、Aswan Highダムは完成から1700年後(西暦3670年)には土砂により埋没すると言われているが、上流側にダムが次々と建設されている現状においてはこの予測はさらに遅くなるであろう。

写真1.海岸浸食を受けるナイルデルタ

写真2.ナセル湖に突出しているスーダン国境

1-10-2. 中洲の定義

Wikipediaによれば、中洲とは「川の中において、上流から供給された土砂などが堆積し、陸地となっている地形のことであり、川中島ともいう」と定義されている。この定義に従うならば、中洲はあくまでも河川中に運搬された砂礫や粘土でできた低平な島ということになる。ナイル川にはこのような河川の運搬・堆積作用で形成された中洲も数多くあるが、地形上あるいは地質構造上「岩盤中洲」となったものもあり、「土砂などが堆積」していないにもかかわらずこれらを「中洲」と表現するには無理がある。また、ナイル川の中洲には、洪水のたびに水没するタイプと、長期間洪水の被害を受けず、農耕地として土地利用されている他、住民が居住している大規模な中洲もある。そのため、本章では植生が未発達な「不安定な中洲」は調査の対象外としている。

1-10-3. 中洲の調査方法

ナイル川に数多く分布する中洲を調査するためには、Google Earthの利用が効果的である。今回の原稿を執筆するために、Google Earth上でナイル川を何度も、エジプト国境から南スーダン及びエチオピア国境まで往復し、衛星画像を調査した。この作業にはかなりの時間を要しており、その最大の理由は、ナイル川本流に予想以上の中洲が点在していたことによる。

本章では、自然条件上の観点から「沖積層の中洲」と「岩盤中洲」、土地利用上の観点から「集落+農地の中洲」、「農地のみの中洲」、「未開発の中洲」に分類し、その数を集計した。また、数は少ないものの、実際に住民が居住している中洲である2島(Tuti島とGezira Aba島)を訪問し、その実態を調査した。
上記分類による調査結果は表2に示す通りである。この表に示すとおり、スーダン国内のナイル川流域には906ヶ所の中洲が存在している。しかも、その内の88%はハルツームから下流のナイル川本流に分布している。専門家はこれ程多くの中洲がナイル川に発達していることを、調査に着手するまで全く予想していなかった。更に驚くべき事実は、97ヶ所もの中洲に集落が形成されていることである。ただし、近代的な連絡橋が完成しているのはTuti島とGezira Aba島のみであり、それ以外の中洲への移動手段は、主に小型のフェリーや川舟となっている。

河川名調査対象
距離(Km)
自然条件による中洲の分類土地利用による中洲の分類
沖積層岩盤合計集落+農地農地のみ未開発合計
ナイル川本流(*1)1,38834845079887269442798
アトバラ川7201121333713
青ナイル川672424460291746
白ナイル川496173249773549
合計3,27641848890697308501906

*1 ハルツームからエジプト国境までを対象とする

1-10-4. 沖積層の中洲

スーダン国内のナイル川流域における沖積層の中洲の合計は418ヶ所であり、これは全体の46%に相当する。また、これらの多くはナイル川本流に形成されており、その割合は約88%にもなる。ナイル川本流に続き、青ナイル川で42ヶ所、白ナイル川17ヶ所、アトバラ川11ヶ所となっている。沖積層の中洲は極めて優良な農地となっており、ナイル川流域沿岸と共に水利に恵まれた豊かな農業地帯が形成されている。

写真3.青ナイル川の中洲(沖積層)

写真4.ナイル川本流の中洲(沖積層)

1-10-5. 岩盤中洲

日本人がイメージする沖積層の中洲に対して、スーダン国内には488ヶ所もの岩盤中洲が分布している。正式な専門用語として「岩盤中洲」が認定されているかは定かではないが、本書において「岩盤中洲」という用語を「地質構造上あるいは地形上、地表に露出した岩盤の弱部や断層帯及び亀裂帯に河川が流れ込むことにより孤立した川中島」と定義した上で使用する。ナイル川本流には合計6ヶ所の「早瀬」が分布しており、この内第1早瀬にはAswanダムが、第4早瀬には2009年にMeroweダムが建設されている。これらの早瀬は、基盤岩地帯に位置し、しかも一部の流域は峡谷となっているため、ダム建設の適地でもある。この岩盤地帯に大小さまざまな「岩盤中洲」が形成されているが、沖積層の中洲と異なり、岩盤中洲では河川周辺部に小規模な農地や集落が形成されているものの、島の中心部での土地利用は確認できなかった。

写真5.ナイル川本流の岩盤中洲

写真6.アトバラ川最大の岩盤中洲

1-10-6. 集落と農地を有する中洲

ナイル川流域の中洲には大小さまざまな集落が形成されている。今回の調査で、97ヶ所もの中洲で集落が確認されているが、その約90%はナイル川本流に分布している。これに対して、白ナイル川には7ヶ所、アトバラ川には3ヶ所しか集落を有する中洲は確認されず、青ナイル川においては確認できなかった。青ナイル川の中州に集落が形成されていない理由として、河川水位が雨季と乾季で大きく変動し、日干し煉瓦で住居が建造されている集落では、雨水没等により一部の家屋が倒壊する可能性があるということが考えられる。青ナイル川の水位は雨季と乾季で10m前後変動し、農地としては大きな問題はないものの、家屋等の建設には不利な条件となっている。また、青ナイル川の調査対象区間に岩盤中洲が見られないことも理由と考えられる。

一方で、集落の規模と地質に着目すると、全体的に沖積層の中洲の人口規模が大きく、岩盤中洲の集落は小規模である。これは沖積層の中洲が優良農地であり、農作物の生産性が高いのに対して、岩盤中洲では河川に接している沿岸部のみしか農地が開発されておらず、農地の絶対的な面積が少ないことによるものと考えられる。当然のことながら、沖積層の中洲には多くの人々が生活できるだけの農作物の生産が可能となる。写真7にナイル川本流の岩盤中洲の集落を、また写真8にスーダンの中洲で最も人口密度の高いTuti島の市街地を示す。

写真7.ナイル川本流の岩盤中洲に形成されている小規模村落

写真8.Tuti島の高密度な市街地の様子

1-10-7. 農地のみの中洲

農地のみに利用されている中洲は308ヶ所あり、中洲全体の約34%に相当するが、これに集落を有する中洲の農地97ヶ所を加算すると、中洲全体の約45%を占めることになる。河川別では、ナイル川本流に全体の約87%が集中している。これに対し、青ナイル川に29ヶ所、白ナイル川に7ヶ所、アトバラ川に3ヶ所分布している。青ナイル川では、集落を伴う農地を有する中洲を確認することはできなかったが、農地のみの中洲の数では、他の支流よりも格段に多くなっている。岩盤中洲の場合、農地は中洲の周縁部に限定され、中心部は乾燥地帯となっている。これに対し、沖積層の中洲の場合、島全体が農地となっており、一部の農地では、毎年雨季の増水で冠水する。この冠水により肥沃な土壌が毎年供給され、安定した農業生産が可能となっている。

写真9.岩盤中洲の農地

写真10.青ナイル川の中洲の農地とセンターピポット灌漑施設

1-10-8. 未開発の中洲

今回の調査では未開発の中洲も対象としている。この中洲は将来的に農地として活用可能と考えられるが、現在は自然の植生で覆われている。未開発の中洲における自然植生の程度としては、完全に植生に覆われているものとその途上にあるものとが見分けられる(写真12参照)。優良農地としての中洲は、スーダンの農業にとって大変重要と考えられるが、本調査では、自然発生した中洲の土地所有方法を明らかにすることができていない。今後は、法令上、新たに形成された中洲がどのように住民に分配されているかについての情報を入手する必要がある。

写真11.植生に覆われた未開発の中州

写真12.部分的な植生に覆われた未開発の中州設

1-10-9. ハルツームの中心Tuti島

写真13.スーダンで最大の人口密度を有する中洲「Tuti島」

写真14.中国がTuti島に建設した橋梁

白ナイル川と青ナイル川がハルツームで合流する地点に半月のような形状のTuti島がある。島の面積は5km²、人口は約1.5万人である。スーダン国内でナイル川に形成されている中洲の中で、Tuti島ほど人口密度が高く、かつ将来的資産価値の高い島はないだろう。1964年に発生したナイル川の大洪水により、この島は壊滅的な打撃を受けたが、その後見事に復興を遂げ、現在ハルツームでも有数の観光スポットとなっている。2009年に中国の援助によりハルツームとTuti島の間に近代的な橋梁が完成した後は、車や徒歩での移動が可能となり、週末には多くの人々がこの島を訪問している。

集落は島の東部に集中しているが、これは若干標高が低い白ナイル川に接した沿岸の土地が洪水で浸水しやすいためと考えられる。島内の道路の多くは幅員が狭く、車両の離合に支障があるが、このような状況にも関わらず、2009年の橋梁完成後、休日には多くの車両が島に渡ってくる。島への移動手段としてフェリーを利用していた2009年以前には、このような状況はあまり見られなかった。このような変化に対し、島民は必ずしも観光目的の人々を歓迎しているわけではない。 一方で、Tuti島では優良農地が発達している。肥沃な土壌が青ナイル川から運搬され、かつ周囲を白ナイル川と青ナイル川に囲まれているため、農業用水には恵まれている。農業用水はエンジンポンプで汲み上げられ、個人の所有する農地で灌漑利用されている。農作物としては玉ネギ、人参、オクラ、アルファルファが主体であり、この他マンゴーやレモンの果樹園も見られる。

写真15.青ナイル川とTuti島

写真16.Tuti島から望むハルツーム市内

写真17.車両の離合が困難な狭い道路

写真18.比較的広い道路

写真19.島内は肥沃な農地が広がる

写真20.植生の豊富な島内

1-10-10. Gezira Aba 島

写真21.Gezira Aba島全景

写真22.白ナイル川の右岸部に建設された
コーズウェイと島の中央部

白ナイル州のRabackロカリティー内に位置するGezira Aba島は、白ナイル州最大(南北25km、東西5km)の中洲であり、約4.5万人の人口を有している。また、この島は1992年創立のImam Mahadi大学(学生数約5000人)をはじめ、26校もの学校を有する学園都市でもある。

中洲の地形としては、東側が高く、西側に向かい傾斜しているが、地質的には、明らかに白ナイル川の洪水で堆積した沖積層である。この島の地盤は軟弱なため、島内には手掘りの井戸が数多く存在するが、これらの井戸の深度は浅く、乾季には空井戸となる。周囲を白ナイル川に囲まれているこの島内には1969年及び2010年に浄水場が建設された。しかしながら、1969年に建設された浄水場は、浄水池からの漏水が多く、現在使用を停止している。そのため現在は、2010年に建設された5,000m³/日の浄水場のみを利用し、島内のおよそ2/3の家庭に加圧給水している。
Gezira Aba島は、水量的に安定した白ナイル川という水源を有しているが、浄水場の施工品質が低いため、2010年に完成した施設から既に水槽漏水や機械故障等の不具合が発生している。また、給配水を行なう配管にも課題があり、漏水が日常的に発生している。

写真23.2010年に完成した浄水場の様子

写真24.大学施設内に設置されている

写真25.突然発生した漏水に対応する

写真26.白ナイル川右岸に建設されたコーズウェイにより車輌での移動が可能となる

写真27.島内中心部の広場

写真28.島内の取水施設

写真29.島内唯一の浄水場

写真30.Imam Mahadi大学の看板

写真31.大学構内の様子

1-10-11. 中洲調査の留意事項

スーダン国内には数多くの中洲が分布しており、その特徴をこれまで述べてきた。本来は出来るだけ多くの中洲を現地調査した上でこの種の書籍を作成すべきだが、スーダンでの中洲の現地調査には多大な困難が伴う。例えば、ハルツームから近いTuti島は大規模開発の対象になっており、外国人が調査で立ち入れば厳しい視線が投げかけられる。また、住民への聞き取り調査や施設の写真撮影も困難であり、極めて閉鎖的な島と言える。

Gezira Aba島の調査で事前に州水公社に連絡をした上でこの島に立ち入ったが、調査中に治安関係者が突然私達を取り囲み、カメラを取り上げられた。私達はこの島が技術協力プロジェクトの対象地域であることを説明し、島内にある浄水場の調査を目的として入島したことを伝えたが、治安関係者は聞き入れなかった。最終的には州水公社の総裁から治安関係者に直接電話連絡があり、調査を再開することができた。このように、スーダン国内で現地調査を実施する場合には、事前の承諾と政府側関係者の同行が不可欠であり、この手続きを省略すれば思わぬ事態に発展する可能性があることを報告しておきたい。

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