スーダンの水事情(その実態に迫る)(株)地球システム科学 上村三郎 (技術士:応用理学) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
31.南コルドファン州の水事情31-1.はじめに南コルドファン州は南スーダンが独立するまではスーダンのほぼ中央部に位置しており、しかも2008年までは南コルドファン州と西コルドファン州に分離していました。この州は北部を北コルドファン州、東部は白ナイル州及び南スーダンのアッパーナイル州、西部を南ダルフール、南部を南スーダンのワハッド州及び北バハール・エル・ガザール州に囲まれています(図31-1参照)。この州は23年に渡る紛争でインフラ整備がかなり遅れています。また、この州には南スーダンとの暫定統治地域であるアビエイ地区やNuba山における反政府勢力が活動しているために、現在に至っても紛争が絶えません。ただし、南コルドファン州は南スーダンと国境を接していることから、アルコールの入手が可能であること及びイスラム教徒が絶対口にしない豚が飼育されているなど非イスラム圏の人には魅力的な地域でもあります。 南コルドファン州の面積は13万平方キロであり、これは北海道、四国、九州を合わせた面積に匹敵する規模です。2010年の人口統計によれば、この州の人口は約140万人となっていますが、面積が大きいために人口密度は10人/平方キロ程度です。州には①Rashad、 ②El abassya、 ③Abu gebiah、④Talodi、 ⑤El Dilling、 ⑥Dlami、⑦Elqouz、⑧Habila、⑨Kadugli、 ⑩Haiban、⑪El buram、 ⑫Um dorain、⑬El reef elshargi、⑭Babnousa、 ⑮Lagawa、 ⑯Kailak、 ⑰Abyai、 ⑱El Sonut、⑲ElSalamの19のロカリティーがあります。 南コルドファン州は治安上の理由からこれまで専門家の渡航が禁止されていました。しかしながら、2010年の後半より、外務省による渡航規制が一部緩和され、特定地域への訪問は可能となったものの、2011年5月以降、南コルドファンと青ナイル州では紛争が勃発したために、現在渡航が再度禁止されています。 このような厳しい治安の現状下、私は2011年2月22日から2月25日にかけて現地調査を州都のカドグリ周辺で実施することができました。当初「スーダンの水事情」においては、水分野のそれぞれのテーマをベースに執筆する方針でしたが、南コルドファン州と青ナイル州への訪問が再び困難になったこと及び、これに伴い様々な情報の入手が停滞する可能性が出てきていることから、現地を訪問した関係者の一人として、この州の水事情を少しでも報告するべきであると考えました。 ただし、「南コルドファンの水事情」では、19存在するロカリティーの内、州都の位置するカドグリのみを対象として調査しており、南コルドファン州全体の水事情調査をベースに作成されたものでないことを予め断っておきます。また、Nuba山に関しては、現地調査ができなかったことから、一部インターネットでの情報を活用しています。
31-2.南コルドファン州の自然概要一般に水事情調査を実施するためには関連する地形、地質、降水量、植生、関連する給水施設等の情報の入手が不可欠です。また、スーダンでは信頼関係が構築できていなければ、なかなか積極的に情報が提供されません。しかしながら、私たちがハルツームで実施している人材育成プロジェクトを通して、南コルドファン州には複数回に渡って研修を受けた人材が州水公社で活動しており、彼らから様々な資料の提供を受けることができました。 31-2-1.地形スーダンを代表する山としてダルフール地方のMarra山とコルドファン地方のNuba山があります。これらの山の自然環境は全く異なりますが、共通点として双方とも降水量に恵まれており、しかも紛争地帯となっていることです。紛争の原因はもともとアラブ系ではないアフリカ系の住民がこの地域に居住しているものの、中央政府の開発から取り残され、まともなインフラが整備されていないことに対する住民の不満があったことによります。 ダルフールのMarra山が3000mを超す単体の火山で構成されているのに対して、Nuba山地は1400mから1000mの山々が分布しており、その実態はなかなか把握しにくいものがあります。南コルドファン州の中央部にNuba山地が広がっていることから、東西南北の方向に水系が発達しているものの、これらは全てワジです。州都のカドグリはワジ沿いに発達した東西に細長い盆地上にあり、標高は500m前後です。カドグリの盆地は南北方向に850m程度の花崗岩質の山々に囲まれています。
31-2-2.地質南コルドファン州の地質は大きく沖積層、ウム・ルワバ層、ヌビア砂岩層及び基盤岩(カンブリア紀からジュラ紀)から構成されています(図31-2参照)。 (1)沖積層 Nuba山地から流出する大量の土砂によって形成された扇状地や盆地及び内陸平野の堆積物であり、良好な帯水層となっています。ただし、この沖積層には高塩分の地下水が賦存している場所もあります。 (2)ウム・ラウバ層 この地層は南コルドファン州の南、南西及び西部方面に分布しており、固結または半固結の砂、礫、粘土質砂及び粘土で構成されています。この地層は第三紀から第四紀にかけて形成された河川及び湖成の粘土、砂岩等の堆積物であり、通常は地表を薄く覆う程度であるものの、一部には層厚が400mを越す地域も見られます。 (3)ヌビア砂岩層 スーダンの地下水開発で最も重要な地層として白亜紀に堆積したヌビア砂岩層があります。この地層はスーダンの内陸部全域に分布しており、南コルドファン州では南部と西部に存在し、100mから500mの層厚を有します。この地層における井戸成功率は高く、しかも水質水量とも良好な帯水層となっています。 (4)複合基盤岩類 スーダンで最も広く分布する地層は複合基盤岩類であり、これは先カンブリア紀の火成岩、変成岩、堆積岩で構成され、スーダン全体の49%の面積を占めています。今回調査の対象となったカドグリ地方は沖積層を除き、この基盤岩が主体となっています。通常この基盤岩地域での地下水開発は困難とされているが、ある程度降水量がある風化帯や亀裂帯には地下水が存在しており、適切な地下水探査が実施されれば井戸成功率も高くなります。なお、カドグリ地域の基盤岩類は花崗岩と変成岩が主体となっています。
31-2-3.降水量南コルドファン州の年間平均降水量は北部が400mm、南部が800mmであり、雨季は5月から10月までとなっています。この降水量はハルツームの2倍から3倍に相当しています。ただし、この州は1980年から2000年にかけて大規模な旱魃が発生しており、必ずしも降水量が安定しているわけではありません。 図31-3には州都であるカドグリ市における2007年から2009年までの月別降水量を示しています。この図からも明らかなように、カドグリ市では雨季と乾季が明確となっています。雨季は5月から10月、乾季は11月から4月までとなっています。つまりカドグリ地方では5月から10月の間が農業や水資源の開発やウォーターハーベストの重要な時期となっています。逆にこの時期は南コルドファン州の道路が幹線しか舗装されていないことから、現場での工事は不可能になります。したがって、この地域で工事を伴うプロジェクトを実施する場合には、11月から4月までの半年間に活動できるスケジュールを立てなければなりません。
31-2-4.動植物スーダンにおける植生は北部から南部に進むにつれ植生密度と種類が多くなる傾向があります。北部スーダンでは年間降水量が極めて少ないことから、乾季に灌漑された場所以外に植生の分布は少ない現状にあります。しかしながら、南コルドファン州では岩盤の露出した岩山であっても潅木が見られます。主な樹木としてはバオバオ、ニセアカシアなどです。また、平野部においてはイネ科の植物が高密度で分布しており、これは乾季における牛やヤギの重要な食料となっています。 南コルドファンでは雨季には広大な湖や緑の平原が出現するそうです。その結果、北部ではあまり見られない牛の放牧が盛んとなり、家畜の水飲み場には500頭単位で牛が集まってきます。牛は人間以上に大量の飲料水を消費する他、排出物が水源汚染の原因となるために、極力水源から離れた場所に家畜用の水飲み場は設置されなければなりませんが、残念ながら南コルドファン州では水源まで家畜が集まっています。
31-3.水事情31-3-1.全体水使用量南コルドファン州における19ロカリティーの飲料水供給状況は表31-2に示す通りです。この表での州の人口は2008年の人口統計である140万人より110万人多い250万人となっています。また、一人当たりの日飲料水供給量を示す平均給水原単位では都市部(11.8?)よりも村落部(22.2?)が多くなっています。
31-3-2.ハンドポンプ南コルドファン州ではUNICEFが水と衛生プロジェクト(WES)を長年(1975年より)実施しており、州水公社の近隣には最新の事務所とワークショップ及び資材置き場が建設されています。そして、UNICEFは自前で井戸掘削機を3台所有し、廉価でハンドポンプ用の井戸を数多く建設してきました(平均60mの井戸で25,000SDG=75万円)。しかしながら、物理探査などの水源開発に必要な調査の不足、しかも安い金額で低品質な井戸を完成させたことから、カドグリ周辺に建設されたハンドポンプ用井戸83本の内、現在稼動中の井戸は12本のみとなっています。 井戸の不具合については2種類の問題が考えられます。一つは井戸自体の寿命または施工不良による劣化であり、2点目はハンドポンプに起因する問題です。後者の場合であれば、ポンプを修理または再設置することによって再活性化が可能ですが、井戸そのものに問題がる場合には廃棄せざるを得ません。国際機関であるUNICEFが何故このような問題の多い井戸を建設しているのかスーダン側の正確なモニタリングが必要です。 北部スーダンではハンドポンプ(レベル-1)から動力ポンプでの給水(レベル-2)が急激に進展している中、ハンドポンプの改修工事は優先度が低くなっています。しかしながら、南コルドファン州では数多くのハンドポンプが建設されており、これらの井戸の改修は緊急の課題でもあります。しかも、改修後は極力レベル-2の給水システムを目指すことが今後益々重要となります。ただし、ハンドポンプの運営維持管理体制強化が殆ど進んでいない現状では、揚水量の大きな井戸を対象にソーラーポンプシステムへの変換を図ることも給水普及率の向上に結びつく可能性があります。
31-3-3.ウォーターヤードカドグリ地区には28箇所程度のウォーターヤードが建設されています。「ダルフール及び暫定統治三地域人材育成プロジェクト」では南コルドファン州と青ナイル州のレベル-2におけるウォーターヤードの改修工事に必要な機材調達を進めてきました。しかしながら、2011年5月頃より、紛争が再発し、州都のカドグリでは政府機関が破壊され、2012年2月現在も外国人の立ち入りは厳しく制限されていることから、南コルドファン州でのパイロット事業は一時中断せざるを得ない状況になっています。また、反政府勢力は対戦車用地雷を敷設しているとの情報もあります。 上記のプロジェクトで設計した機材は日本人専門家が現地調査を実施できなかったことから、ローカルコンサルタント及びSWCからの研修生からの聞き取り調査をベースに調達されました。しかしながら、今回の調査を通して、カドグリ地域におけるウォーターヤードには様々な問題点が明確となり、この種の遠隔操作によるプロジェクトの現状把握の困難性を再認識することになりました。 (1)集落から離れた施設 今回調査した5箇所のウォーターヤードの全てが集落から1000m近く離れた場所に建設されていました。これは水源の開発を優先した結果と考えられますが、実態は正確な物理探査を集落の近くで実施することもなく、地形上と掘削担当者の経験のみで井戸掘削場所が選定されたものと考えられます。その結果、ウォーターヤードが完成しても、集落までの配管が施工されていないことから、住民はハンドポンプの活用と全く類似した水汲み労働が日常となっています。つまり、カドグリ地区のウォーターヤードは中途半端な施設となっています。したがって、今後のこの州におけるウォーターヤードの改修工事では集落までの配管工事と共同水栓の建設を実施する必要があります。 (2)正確な井戸データの不足 日本はこれまでダルフール3州に対してはパイロット事業による井戸改修の支援を実施してきました。そして、井戸のリハビリに必要な関連機材が調達され、現在比較的順調に井戸の改修工事が進捗しています。 しかしながら、南コルドファン州と青ナイル州に対しては井戸データが不足していたことから、井戸を除く地上部分の施設の改修工事に必要な機材を調達することになりました。そのため、今回の現地調査では、ウォーターヤード改修の前提である井戸の実態把握に努め、具体的には井戸の水位と深度を計測しました。その結果、ウォーターヤードの改修対象となっている2箇所の井戸は水位が極めて低く、水中ポンプの設置が困難であることが判明しました。
31-3-4.ハフィールハフィールとはスーダンで伝統的なウォーターハーベストのシステムです。原理は実に簡単であり、所定の大きさの貯水池を人力または機械で建設し、雨季に水を溜め込むものです。南コルドファン州でもハフィールは数多く建設されており、井戸やまともな水源が確保できない村落は、ハフィールが唯一の生活用水確保の施設となっています。しかしながら、スーダンのハフィールは規模が大きく、当然のことながら、水を求めて家畜や動物も集まってきます。そして、動物はハフィールの貯水域内で排泄し、ハフィールの水は飲料水の水質基準さえ全く満たしていない現状にあります。 ゲダレフ州などの比較的豊かな州ではハフィールに小型の緩速ろ過施設を設置し、水質改善を実施した上で給水している場所もあります。しかしながら、南コルドファン州ではこの種の施設の維持管理に課題があり、州水公社も時期尚早としています。 州水公社は大規模なハフィール建設を中国に要請しており、今後南コルドファン州のハフィール建設は中国が主体となって実施されることになるでしょうが、あくまでも治安が回復した上でのことになります。
31-3-5.MiriダムMiriダムはスーダン独立前の1962年に完成した重力式ダムです。州都のカドグリとこのダムまでの距離は直線で約20キロであり、しかも途中に急峻な山地はなく、州都の飲料水を抜本的に改善するためにはこのダムからの導水が最適と考えられます。 しかしながら、このダムは有効に活用されてきませんでした。その背景として「放射能汚染したダムの水」との噂が広まっていることでした。この最大の根拠はハルツーム大学が実施した45年前の調査となっています。スーダンでは原子力発電はなく、また、核実験をした事実もありません。若し、ハルツーム大学の調査が正しいのであれば、自然放射能以外には考えられません。いずれにせよ、計測技術のレベルが低かった時代の分析結果であり、真相は最新の分析機器によって解明されなければなりません。 このダムを調査した結果、乾季にもかかわらずダム湖は満水でした。また、ダム湖には巨大な魚が見られました。州水公社は水質分析をこれまで実施してきておらず、折角のダムの水を全く活用しないまま放置しているにもかかわらず、別の場所に新たに中国の援助による大規模ダム(4億トン)の建設を進めています。
31-3-6.小規模ダムカドグリ地域を含む南コルドファン州には中央部にNuba山地が位置していることから、数多くの水系が発達しています。そしてこれらの水系にはダムの適地が複数箇所存在するものと考えられます。 今回訪問した小規模ダムはワジの比較的谷が深い場所に4基建設されており、全て干上がっていました。住民からの聞き取りに寄れば、このダムは雨季の後の10月から12月までの3ヶ月間は生活用水として利用されているとのことでした。ダムの建設はイギリスのNGOが行っており、2010年3月に施設は完成しました。 小規模ダムの建設に関しては様々な意見があり、現状の施設から判断して、この種の小規模ダムは恒久的な水源確保施設とは考えられません。しかも、ハフィールと同様基本的に人間以外に家畜や動物も利用することから、水質的な問題は解決できていません。また、堰堤の高さが中途半端であり、十分な調査に基づいた施工が実施されたかどうかも疑問です。 南コルドファン州の降水量は600mm程度とスーダンでは比較的恵まれています。また、山地での降水量は更に多くなる傾向にあります。このような現状を考慮した場合、適切な調査でダムの建設場所を選定し、平野部ではなく山地の峡谷に小規模ダム群を建設すればウォーターハーベストの観点から十分水資源として活用可能と考えられます。
|
コラム TOP へ戻る |
ホームへ戻る |