スーダンの水事情

(その実態に迫る)
(株)地球システム科学 上村三郎 (技術士:応用理学)

28. ダルフールの水事情 (1)

28-1.はじめに

私はこれまでスーダン15州の内、ダルフール3州を除く12州を訪問し、各種調査を実施してきました。ダルフール3州のみを調査できなかった背景は、この地域が所謂ダルフール紛争の激戦地であり、治安が極度に悪化していたことによります。そのような現状下、日本は2009年6月から「ダルフール人材育成プロジェクト」を開始し、私も調査の段階から関与してきました。そして、ようやく2011年12月17日から12月24日にかけて西ダルフール州と北ダルフール州の調査が承認され、現地に出向くことができました。ただし、南ダルフール州のみは治安が不安定であったことから、今回の調査対象州から除外されました。

スーダンの水事情に関しては水分野に関連する各テーマに対するコメントを基本としておりますが、なかなか訪問できない州に対しては独自にその州の水事情を報告することにします。これまで、州の水事情は紅海州のみでありましたが、今回ダルフール3州を新たに追加します。同時に、現在渡航が禁止されている青ナイル州と南コルドファン州についても各種情報を提供したいと考えています。 表28‐1にはダルフール3州の全体概要を示しています。この表からも明らかなように、ダルフール3州は日本の国土面積よりも大きな、約50.3万Km2となっています。また、国内避難民が3州の全人口の27%(約229万人)に相当するのもダルフールの大きな特徴と言えます。


表28-1.ダルフール3州の概要

28-2.ダルフールの自然

ダルフール3州の面積は日本の国土面積の約1.5倍の約50.3万Km2もあり、しかも経度が15度以上東西で離れていることから、西ダルフールの州都のエル・ジェネイナはハルツームと比較して、約1時間の時差があります。このように広大な面積を有するダルフール地方には、スーダン最高峰のマラ山(3088m)やテルジョ山(1954m)が域内にあることから、他のスーダン諸州よりも比較的降水量に恵まれています。ただし、北ダルフール州の殆どはサハラ沙漠の一部であり、まとまった規模の集落は殆ど発達していません。

なお、マラ山の標高に関しては、3024m(ミシェラン地図)、3042m(グーグル)等諸説ありますが、本稿では「スーダン地形図」に記載されている3088mをマラ山の正式な標高として使用します。

28-2-1.地形

ダルフール地方はスーダンの中で最も標高差の大きな地域となっています。スーダン最高峰のマラ山が3088mであるのに対し、北ダルフールの北部のサハラ沙漠は400m程度の標高となっています。スーダンに火山があることを知っている日本人は少数ですが、このマラ山の山頂部のクレーターには2つの火口湖が存在しています(写真28‐1参照)。東側の火口湖にはクレーター内に発達した3つの谷が流入しているのに対して、西側の火口湖に流入する谷は見られません。したがって、東側の火口湖と西側の火口湖の水質は大きく異なっている可能性があります。

なお、マラ山は現在噴煙を上げているわけではなく、最後に噴火した年代も紀元前2000年頃とされていますが実態は不明です。アフリカ大陸の多くの火山はアフリカ大地溝帯の周辺に分布しています。これに対して、マラ山は大地溝帯から西に2000km以上も離れた場所に位置する特殊な火山となっています。火山であることから、山麓周辺に温泉が湧出している可能性もありますが、正確な情報はなお不足しており、今後の継続的な調査が必要です。

写真28-1. マラ山頂に形成されている2つの火口湖 (出典:Google Earth)

マラ山は標高が3000mを超えていることから、周辺部よりも降水量が多くなっています。その結果、この山を中心に大小さまざまな水系が発達しています。これらの水系は基本的にワジであり、雨季以外には表流水を有していません。また、水系は東西南北全ての方向に発達しているものの、大きくナイル川水系とコンゴ川水系に2分されています。ダルフールの水系がナイル川のみならず、大西洋に流出しているコンゴ川と地形上合流していることは改めてスーダンの広大さを認識させるものです。なお、ダルフール3州の州都の内、西ダルフールのエル・ジェネイナだけは直接マラ山を水源とする水系に属しておらず、テルジョ山(1954m)を水源とするKaja水系となっています。

表28-2にはダルフールを代表するマラ山系の7水系の特性を示しました。また、図28-1にはそれぞれの水系の分布図を示しています。これらの図表からも明らかなように、7つの水系の流域面積は14.8万Km2となっています。また、最大の流域面積を有する西ダルフール州のKaja水系のみで九州とほぼ同じ面積となっています。しかしながら、この水系は流域面積の割には年間降水量が少なく、単位面積当たりの年間降水量では7水系の内5番目となっています。逆に、南ダルフールのSido流域は面積が小さい割には年間降水量が多く、単位面積当たりの年間降水量は最大となっています。


表28-2.ダルフールにおけるマラ山系の流域特性

図28-1. マラ山系を主体とする代表的な水系の分布図(出典:西ダルフール水公社)

図28-2.マラ山系における森林破壊の様子(出典:UNEP)

一方で、マラ山系における森林破壊は急激に進んでおり、このことは今後のダルフールにおける水利用を考慮した場合に、マイナス要因となります。つまり、山系の森林や植生の人工的な破壊によって、表土の流出が増大し、その反面雨水の地下浸透が低下する可能性があるのです。図28‐2には1973年と2006年におけるマラ山系の森林の分布及び破壊状況を示しています。この図からも明らかなように、急激な森林破壊が進んでいることがわかります。この傾向は多くの国内避難民がこの地域に居住していることから2011年12月時点では更に悪化しているものと推定されます。

28-2-2.地質

スーダンの西縁のチャドや中央アフリカ共和国との国境付近は、プレカンブリア紀の片麻岩や片岩などの変成岩類とこれらを貫く花崗岩などの深成岩類からなる基盤岩で構成されています。西ダルフール州はほぼ全域がこの基盤岩分布域に含まれているものの、州都の郊外に一部ヌビア砂岩層が分布していることから、この付近で数多くの井戸が建設され、州都に導水されています。

南ダルフール州では、州都であるニャラ付近の地盤は基盤岩で構成されていますが、既存井はその南側の、バガラ・ベースンと呼ばれる地溝帯に堆積したヌビア砂岩層の分布域を中心に開発されています。なお、南ダルフール州南西部からヌビア砂岩層の分布域にかけては、白ナイル川の支流であるバール・エル・アラブ川の流域となっています。

アフリカ北部に広がるサハラ砂漠の南縁に沿っては、もともと草原地帯であったサヘル地帯と呼ばれる半乾燥地域が東西方向に帯状に広がっています。北ダルフール州の北半部はサヘル地帯と沙漠地帯にあたるため集落はほとんど分布しておらず、人口は州の南部に集中しています。南西部の西ダルフール州との州境から州都のエル・ファシェールにかけては、基盤岩の露出域となっていますが、その周辺には南ダルフール州のバガラ・ベースンへと連なる帯水層が細長く分布しています。しかも、地下水の賦存状況は南ダルフール州などと比較するとかなり限定されています。 図28-3にはマラ山周辺の地質図を示しています。この山は山頂付近に火山灰が堆積し、その周辺に火口から流出した玄武岩質の溶岩が分布しています。玄武岩から下流部は変成岩を主体とする基盤岩となっています。このように、マラ山は山頂及びその周辺に火山灰や玄武岩が堆積しており、このことは降水の地下浸透に貢献しているものと考えられます。

なお、南ダルフールの水理地質を図28-4にまた、ダルフール全地域の水理地質図は図28‐5に示す通りです。この図からも明らかなように、ダルフール地方は茶褐色部分の基盤岩地域と青色のヌビア砂岩層の地域が明確に分かれています。特に北ダルフールの北部地域にはまとまった集落は見られないものの、広大なヌビア砂岩層が分布していることから、将来的な地下水開発のポテンシャルが高い地域となっていることがわかります。

図28-3.マラ山の地質図(出典:西ダルフール州水公社)

図28-4.南ダルフールの水理地質図(出典:PWC)

図28-5.ダルフールの水理地質図(出典:国営水公社)

28-2-3.降水量

ダルフールにはスーダン最高のマラ山(3088m)が3州のほぼ中央部に位置していることから、平野部と比較して降水量が多くなっています。マラ山頂の年間平均降水量は1000mmを超すとも言われており、これは平野部の約2倍に相当しています。その結果、マラ山の存在はダルフール3州の飲料水供給、農業や牧畜に大きな恵みを与えています。

図28‐6にはマラ山を主体とするダルフールの降水量分布を示しています。この図からも明らかなようにマラ山を中心に降水量は周辺に向かって低下していることがわかります。特に、北部及び西部方面では年間300mm以下の地域が多くなる傾向にあります。これに対して、西ダルフール及び南ダルフール地方では南下するにつれ降水量が増大し、平野部でマラ山から離れた地域であっても年間700mmもの降水量を有する地域が分布しています。州都では北ダルフールのエル・ファシールが300mm以下であるものの、西ダルフールのエル・ジェイナや南ダルフールのニャラは500mmを超える等値線で描かれています。


図28-6.ダルフール地方における降水量分布図(出典:RTSコンサルタント)

一方で、南ダルフールの州都であるニャラでは1943年から2011年までの69年間の降水量記録が存在していたことから、その経年変化を分析しました(なお、2001年から2011年までの降水量はWFPの日比氏よりデータの提供を受けました)。その結果、1947年から1957年までは増減を繰り返しながらも降水量は増加する傾向が確認されました。これに対して、1958年から1985年までは減少傾向が続き、その後2005年まで降水量は再び増加の傾向が続いています。そして、その後2011年まで降水量は減少傾向となっています(図28‐7参照)。なお、図28-6の等値線図は2000年代の降水量であり、その分増大した値となっています。


図28-7.南ダルフール州ニャラ市における年間降水量の変動

図28-8にはダルフール3州の州都における月別平均降水量を示しています。それぞれの州都には降水量のデータが蓄積されているものの、今回北ダルフールのエル・ファシールのデータを2003年から2005年までしか入手できなかったことから、他の州についてもこの3年間の降水量を使用しました。この図からも明らかなように、北ダルフールのエル・ファシールの降水量が最も低く、年間190mm程度となっています。これに対して、南ダルフールのニャラの年間平均降水量は617.5mmとなっており、これは西ダルフールの州都であるエル・ジェネイナ(550.7mm)より約67mm多くなっています。

このようにダルフール3州はそれぞれの位置する環境により降水量が大きく異なっていることがわかります。


図28-8.ダルフール3州の州都における月別平均降水量


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