スーダンの水事情(その実態に迫る)(株)地球システム科学 上村三郎 (技術士:応用理学) | |||||||||||||||||||||||||||
15.スーダンの灌漑施設15-1.ダムの要概1974年にローマで開催された世界食糧会議においてスーダンは「世界のパン籠(World Food Basket)」として評価されました。この表現は必ずしも大げさなものではなく、スーダンの各地には広大な農地が延々と広がっており、国内総生産(GDP)の64%が農業生産物と報告されています。年間降水量の少ないスーダンに広大な農地が分布している最大の理由は青ナイル川、白ナイル川、アトバラ川等から取水された農業用水が毛細血管のように農地を潤していることによります。私は農業の専門家ではありませんが、スーダンの水事情を解説するためには、大量の水を取水しているスーダンの灌漑水路や農業について報告する必要があり、この章ではその概要を報告します。 15-2.スーダンの灌漑農地スーダンには11地域に1,417,950ヘクタール(Ha)もの広大な灌漑農地が広がっています(表15-1及び図15-1参照)。私はこれらの灌漑農地の内、紅海州にあるNo.6のTokarデルタ以外は全て訪問しています(ただし殆どは車での移動時に周辺部を撮影する程度)。Tokarデルタはエリトリア西部を南北に貫流するBaraka川(完全な涸川)によって形成された沖積平野であり、雨季の洪水灌漑と地下水灌漑で農作物を生産していると聞いています。この章ではスーダンを代表する大規模灌漑地域の内、Gezira計画とHalfa Al Jadeeda計画及び民間会社であるKenana砂糖会社の灌漑農地について説明します。 Gezira計画は870,750ヘクタール(1位)、そしてHalfa Al Jadeeda計画は152,280ヘクタール(2位)もの面積を有する非常に大きな農業地帯です。これらの大規模灌漑地域には青ナイル川とアトバラ川に建設されたダムから農業用水が供給されています。これに対して、Kenana社のサトウキビ畑向けの灌漑農地面積は45,000ヘクタールとスーダンでは5番目の灌漑面積ではありますが、ここには非常に近代的かつ効率的な灌漑システムが整備されています。
(1)Gezira計画(地図上の番号1) スーダンが独立する40年程前の1925年に世界最大規模(870,750Ha)の灌漑農地がセンナール州からエル・ゲジーラ州にかけて開発されました。灌漑水路の取水堰は青ナイル川中流のセンナールダムに建設されており、このダムから大きな2本の幹線水路が北部に向かって自然流下式で導水されています(写真15-1、15-2参照)。この計画はイギリスの資本により実施され、当初は綿花栽培を目的として開発されましたが、現在は綿花の他に小麦、ソルガム、ピーナッツ、飼料作物(主にアルファルファ)や園芸果樹等数多くの作物が栽培されています。 灌漑水路は全て素掘りであり、日本のようなコンクリートによる三面張りの構造ではなく、また、水路の両側に立ち入り禁止用のフェンスさえありません。そのために、人々は自由に水路に立ち入ることができ、この灌漑用水は水路周辺住民の生活用水としても利用されています。ただし、青ナイル川から大量の土砂が灌漑水路に直接流れ込むことから、定期的な浚渫作業が不可欠となります。その結果、灌漑水路の両岸には浚渫された大量の粘土やシルトが積まれています(写真15-4参照)。 素掘りの灌漑水路は極めて自然に優しいために、水路の両岸には様々な水生植物が繁茂し、そこには青ナイル川起源の淡水魚やワニ、両生類等が生息しています。特に、大小様々な淡水魚は周辺住民に貴重なタンパク源となっています。また、周辺住民とは別に、私は中国人が魚以外の生物(蛇、蛙、ザリガニ等)を灌漑水路で捕獲している現場を見たことがあります。さすがは現地食材で何でも料理できる中国人です。恐らく中華料理用にこれらの「ただ食材」は利用されることでしょう。 青ナイル川と白ナイル川に挟まれた広大な半島状の灌漑地域の地下には上部帯水層に高濃度の塩水地下水があり、周辺住民は必ずしも満足のゆく飲料水を確保できているわけではありません。下部帯水層には豊富な淡水があるものの、井戸の掘削深度が大きくなることから、その開発は順調ではありません。その結果、周辺住民は唯一の淡水の水源である灌漑用水を飲料水として利用しています。
(2)Halfa Al Jadeeda計画(地図の番号2)この灌漑プロジェクトの背景としては、エジプトのアスワンハイダムが建設されたことにより、エジプトとの国境地帯に開けた歴史的な町であるWadi Halfaの多くが水没する事態となりました。そのために、1959年エジプトとスーダンとの間でナイル川の水利用に関する合意書が締結され、スーダン側ではカッサラ州のKashm Al Geziraダムから取水し、下流域の広大な地域に灌漑農地と移転してきた住民の町を建設することになりました。この計画が、Halfa Al Jadeedaです。灌漑面積は152,280ヘクタールもあり、これはスーダンでは2番目に大きな灌漑面積となっています。 新しく建設された町はNew Halfaと命名されました。しかしながら、この町の水源は濁度の高い灌漑用水を使用せざるをえません。その理由はこの灌漑地域の地下には良好な帯水層が発達しておらず、地下水の開発が困難なことです。また、開発された井戸水の水質に問題があり、塩分濃度が高くなる傾向にあります。 粘土やシルトを大量に含んだ灌漑用水は農業用水あるいは家畜用水としては問題ありません。しかしながら、この地域の住民はNew Halfaの浄水場の処理能力が小さいことから、雨季には濁度の高い灌漑用水を利用せざるを得ません。そして、浄水場の沈澱池の周りには排出された粘土がうず高く積まれています。
(3)Kenana砂糖会社の灌漑農地(地図の番号3)Kenana砂糖会社は1975年に設立され、5年後の1981年より本格的な操業を開始しました。この会社の工場設立には日本の海外経済協力基金(OECF)による有償資金協力も貢献しているそうです。本社工場は白ナイル州の州都であるラバクの南に建設されていますが、建設当時はハルツームからラバクまでの道路が十分整備されていなかったことから、敷地内に滑走路が建設され、ハルツームから直接飛行機で多くのビジネスマンや工事関係者が出張してきたそうです。 Kenana砂糖会社が白ナイル川の右岸地域に開設された背景としては、白ナイル川の豊富な水とサトウキビ栽培に適した土壌が分布していたことにあります。特に、サトウキビ畑の灌漑や砂糖製造に必要な水については、白ナイル川の右岸に建設された取水堰から46mポンプ揚水された白ナイル川の水を使用しています。これはダムを建設して灌漑している青ナイル川流域とは大きく異なります。導水された用水は、等高線に沿った水路網でサトウキビ畑を潤し、その水路の総延長は400Kmになるそうです。 私は2009年2月にこの会社を訪問しました。そして、この会社が大規模なサトウキビ畑の栽培や収穫に対して、極めて近代化された機械化システムを導入していることに大変驚きました。この会社は世界最大規模の砂糖の生産量を誇っている他、現在はブラジルの技術協力でサトウキビから純度の高いバイオエタノールも生産し、ヨーロッパに輸出しています。 それだけではありません。この会社は、病院、学校、研修センター、スーパーや動物園までも運営しており、会社の広大な敷地内に足を踏み入れれば、ここがスーダンであることを忘れてしまう程です。特に、ゲストハウスはスーダンでは最も清潔で充実した施設となっています。私はこのような現場を視察するたびにスーダンの潜在能力の大きさを痛感しています。
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