第1章 スーダンの多様な自然

1-1. 地形

1-2. 地質

1-3. 気候

1-4. 植生

1-5. 地下水

1-6. ナイル川

1-7. 青ナイル川

1-8. 白ナイル川

1-9. アトバラ川

1-10. ナイル川の中州

第2章 様々な水関連施設

2-1. ダム

2-2. 灌漑施設

2-3. ハフィール

2-4. 井戸

2-5. 浄水場

2-6. 海水淡水化施設

第3章 地方と都市の水事情

3-1. 地方給水

3-2. 都市給水

3-3. ミネラルウォーター

3-4. 漏水

第4章 各州の水事情

4-1. 北部州

4-2. 紅海州

4-3. カッサラ州

4-4. センナール州

4-5. 白ナイル州

4-6. 青ナイル州

4-7. 南コルドファン州

4-8. ダルフール地方(1)

4-9. ダルフール地方(2)

4-10. ダルフール地方(3)

4-11. 画期的なハワタプロジェクト

はじめに

参考文献

2-5 浄水場

スーダンにはナイル川本流の他に青ナイル川と白ナイル川、アトバラ川が流れており、それぞれの河川沿いには数多くの浄水場が建設されている。スーダンの浄水場は日本と同じように、その浄化方式は大きく急速ろ過方式と緩速ろ過方式に分類できる。旧国営水公社(PWC)の資料によると、スーダンには28ヶ所の急速ろ過浄水場と139ヶ所の緩速ろ過浄水場が建設されている。大規模浄水場である急速ろ過浄水場は、首都ハルツームのように人口の多い都市に建設されており、緩速ろ過浄水場は中小の地方都市に多く設置されている。また近年、急速ろ過浄水場としての機能をコンパクトに組み込んだユニット型の小規模急速ろ過施設の建設が地方で進んでいる。

日本では河川以外にも湖沼の水を利用した浄水場が存在するが、スーダンでは95%以上の浄水場がナイル川及び支流の河川水を処理して配水している。

2-5-1. スーダン固有の問題

スーダンには雨季と乾季があり、この時期の違いに伴い河川の水質が大きく変化するのが、スーダンにおける河川の大きな特徴である。乾季のナイル川はそれぞれ日本と同じような水質であるものの、雨季には上流から雨によって削られた土砂が大量に流下するため、浄水場の原水は以下に示す通り非常に高い濁度となっている(ハルツーム州水公社からの水質分析データより)。

白ナイル川
最小55NTU, 最大22,575NTU
青ナイル川
最小2NTU, 最大29,575NTU
WHO基準値
濁度5NTU以下

いずれのナイル川でも雨季のピーク時には2万NTUを超える濁度となることが、スーダンにおける浄水場の選定や設置、維持管理に大きな影響を与えている。また、雨季と乾季における河川の水位差が最大10mに達する場所もあり、河川からの取水を行う場合、この水位変化を考慮した構造とする必要がある。

写真1.浮島式の取水施設  写真2.水位対応型取水施設(Soba 浄水場)
写真1.浮島式の取水施設 写真2.水位対応型取水施設(Soba 浄水場)

2-5-2. 浄水場の現状

(1) 急速ろ過浄水場

急速ろ過浄水場はハルツームなど主要都市の近くのナイル川沿いに設置されている。10年以上前に建設された浄水場は、どの処理場でもほぼ同じ構造・レイアウトであり、このことがスーダンの急速ろ過浄水場の特徴である。そのいずれの浄水場も場内設備の老朽化が進んでおり、加えて能力以上の水を処理し、流量計などの必要な計器類が設置されていないなど、計画・設計上の問題や、施工時の問題も散見される。しかしながら、最近建設された浄水場は近代的な設備が並び、ほとんどの機能を中央コントロール室からコンピューターによる集中管理が可能であるなど先進諸国並みの浄水施設となっており、機能面での問題は発生していない。ただし、このような最新の浄水施設であっても、雨期になれば首都ハルツームにおいてでさえ、水道の水が茶色に濁ることも多い。ここにはスーダンの凝集剤の問題が存在する。

スーダンの急速ろ過浄水場は、日本の急速ろ過浄水場と同様に凝集剤を滴下し濁度を処理するシステムである。しかしながら凝集剤はスーダン国内では生産していないため、輸入したPAC(ポリ塩化アルミニウム)に頼らざるを得ない。そのため、輸入品である高価な凝集剤を適切に投入することができず、結果的に水道水は一部十分に処理されないまま供給されることとなる。この傾向は特に地方部でより顕著である。スーダンでは雨季の高濃度濁度水に対応するだけの凝集剤を滴下できないばかりか、乾季は原水に含まれる濁度が低いため、凝集剤は添加されない。したがって、地方部では濃度の違いこそあれ、一年中茶色の濁った水道水を使わざるを得ない現状にある。

写真3.急速ろ過槽脇の配管設備 (Soba 浄水場取水施設)  写真4.沈殿池の状況(Soba 浄水場取水施設)
写真3.急速ろ過槽脇の配管設備(Soba 浄水場取水施設) 写真4.沈殿池の状況(Soba 浄水場取水施設)
(2)緩速ろ過浄水場
写真5. 目詰まりによりろ過槽が使用できないため、ナイル川からの水はろ過槽を使用せず直接配水池まで送水されている
写真5. 目詰まりによりろ過槽が使用できないため、ナイル川からの水はろ過槽を使用せず直接配水池まで送水されている
(ナイル州 Elalashagra浄水場)

緩速ろ過浄水場は中小都市の川沿いに設置されている。スーダンには急速ろ過施設の4倍以上の緩速ろ過浄水場が設置されているが、緩速ろ過浄水場で正常に稼働している施設は稀である。ほぼすべての浄水場で緩速ろ過槽が目詰まりを起こし完全に閉塞している状態である。そのため、ほとんどすべての緩速ろ過浄水場において、取水した水は浄水施設を経ることなく直接配水池に送水した後、周辺地域に配水しており、浄水場とは呼べない状況となっている。 緩速ろ過浄水法はそもそも濁度に非常に弱い浄水方法である。逆にスーダンのナイル川の濁度は世界的に見ても非常に高く、緩速ろ過浄水法はそもそもスーダンには不向きな浄水方法であり、導入する計画自体に問題があったと言わざるを得ない。つまり、現在機能しなくなり放置されている緩速ろ過浄水場に対する修理や改造計画は適切とは言えず、今後は、この緩速ろ過浄水場を次項に述べる小規模急速ろ過施設に改造するなどの対策が望まれる。

(3)小規模急速ろ過浄水場

小規模急速ろ過施設は小規模な都市の近郊に設置されているプレハブタイプの浄水施設である。施設はユニット化されており、そこには原水調整槽、凝集剤撹拌槽、沈殿槽、急速ろ過槽、処理水槽等からなる鋼製の水処理設備に加え、薬品貯蔵室、発電機設備等が備わっている。施設は非常にコンパクトであり、また濁度の変化に柔軟に対応可能であるため、小規模の町への送水には最適な浄水方法である。スーダンにおいては比較的新しい施設であり、特に近年このタイプの浄水施設が着実に増加している。スーダンのような広大な国土において、点在するすべての町を通常のタイプの浄水場でカバーすることは配管延長距離が著しく長くなるのが必至であり、都市の規模がそれほど大きくない町に対しては、町の片隅にオンサイト型の小規模急速ろ過施設を個別に設置することがコストパフォーマンスの点から考えても望ましい。小規模急速ろ過施設としてはヨーロッパ製の装置が以前は主流であったが、最近はスーダン国内でも製作されるようになっていることも、この装置の普及を後押しする状況となっている。

写真6.北部州Abuhamed 小規模急速ろ過浄水場 写真7.処理前段設備(薬品混和沈殿)。右側の槽で凝集剤を注入、混合させ、左側の沈殿槽(ハニカム構造)で沈殿させる
写真6.北部州Abuhamed 小規模急速ろ過浄水場 写真7.処理前段設備(薬品混和沈殿)。右側の槽で凝集剤を注入・混合させ、
左側の沈殿槽(ハニカム構造)で沈殿させる
写真8.処理後段設備(砂ろ過装置)。前段設備で大部分の濁度成分を沈殿させた後、圧力をかけて砂ろ過を行う  写真9.凝集剤の注入設備(左)と塩素滅菌設備(右)
写真8.処理後段設備(砂ろ過装置)。前段設備で大部分の濁度成分を
沈殿させた後、圧力をかけて砂ろ過を行う
 写真9.凝集剤の注入設備(左)と塩素滅菌設備(右)