第1章 スーダンの多様な自然

1-1. 地形

1-2. 地質

1-3. 気候

1-4. 植生

1-5. 地下水

1-6. ナイル川

1-7. 青ナイル川

1-8. 白ナイル川

1-9. アトバラ川

1-10. ナイル川の中州

第2章 様々な水関連施設

2-1. ダム

2-2. 灌漑施設

2-3. ハフィール

2-4. 井戸

2-5. 浄水場

2-6. 海水淡水化施設

第3章 地方と都市の水事情

3-1. 地方給水

3-2. 都市給水

3-3. ミネラルウォーター

3-4. 漏水

第4章 各州の水事情

4-1. 北部州

4-2. 紅海州

4-3. カッサラ州

4-4. センナール州

4-5. 白ナイル州

4-6. 青ナイル州

4-7. 南コルドファン州

4-8. ダルフール地方(1)

4-9. ダルフール地方(2)

4-10. ダルフール地方(3)

4-11. 画期的なハワタプロジェクト

はじめに

参考文献

1-3 気候

1-3-1. 雨季と乾季

南スーダンが独立するまでのスーダンは北緯22度から4度まで、広大な国土を有しており、気候は沙漠気候からステップ気候及びサバンナ気候まで含まれていた。しかしながら、2011年7月に南スーダンが独立した後は沙漠気候とステップ気候が主体となった。
スーダンの雨季は東部と南部で5月頃から始まり、10月にはほぼ終了する。ただし、紅海沿岸地方は地中海性気候の特徴を示し、雨季は11月から1月頃まで続く。図1にはスーダンの主要4都市における月別平均降水量の分布を示している。首都のハルツームの雨季は7月から8月までに集中している。これに対して、南ダルフール州の州都であるニャラと青ナイル州の州都であるダマジンは5月から10月までが雨季となる。

図1. スーダンの主要都市における月別平均降水量
図1. スーダンの主要都市における月別平均降水量

次にスーダンの平面的な降水量の分布について述べる。スーダンの雨量は北部から南に移動するに連れて増大し、雨量等値線と緯度はほぼ一致している(図2、図3参照)。つまり、エジプトとの国境地帯では年間25㎜以下の雨量であり、ハルツーム付近で150㎜、センナール州や白ナイル州で400㎜、青ナイル州から南コルドファン州及び南ダルフール州付近で600㎜を超す雨量となっている。これに対して、南スーダンの南東部の年間平均降水量は1400㎜を超しており、これはコンゴ盆地の熱帯雨林にこの地域が隣接しているためと考えられる。

図2. スーダンの降水量分布図
(出典:World Trade Press)
図3. スーダンの雨量等値線図
(出典:Sudan normal rainfall, 1971-2000)

スーダンの8月は雨季の最中にあるが、エジプトと国境を接している北部州に降水は見られず、厳しい高温と乾燥が続く。時々発生する砂嵐は猛威を振るい、国道が全く見えなくなる程の漂砂に覆われ、この時期の運転は非常に危険である(写真1、写真2参照)。一方でエル・ゲジーラ州、センナール州、白ナイル州へと南に移動するにつれ、徐々に雨量と緑が増し、エル・ゲジーラ州より南部の広大な平原では緑の絨毯が敷き詰められたような光景を目にすることができる。

スーダンでは、乾季の道路沿いの風景は褐色の土漠や岩山が荒らしい様相を見せるが、雨季になれば植生が回復し、別天地のような景観となる(写真3、写真4参照)。また、スーダンの雨季には太陽光が遮断されることから、気温が低下し、快適な気候となる。ただし、雨季には厄介なマラリア蚊が発生することから、この時期におけるスーダン南部での活動には注意を要する。

写真5はスーダン東部の中心都市カッサラ市内を南北に縦断するガシ川の雨季と乾季の様子である。この川はエリトリア国内に水源を有し、上流で雨季が始まれば徐々にワディが濁流となり、スーダン側に流下してくる。そして、この濁流こそが、この地域に貴重な地下水を涵養し、また、洪水灌漑による農業用水も提供している。ちなみに、カッサラ市を流れるガシ川は年々河床が高くなり、現在は完全な天井川となっている。

北部州に向かう沙漠の国道   センターラインが消滅したハブーブ直後の道路   雨季に緑の草原化した北コルドファン州
写真1. 北部州に向かう沙漠の国道  写真2. センターラインが消滅した
ハブーブ直後の道路
  写真3. 雨季に緑の草原化した北コルドファン州
aaa  写真5. カッサラ州ガシ川の乾季の様子  写真6. カッサラ州ガシ川の雨季の洪水の様子
写真4. ゲダレフ州の乾季の様子写真5. カッサラ州ガシ川の乾季(左)と雨季の洪水の様子(右)

1-3-2. 雨季前の猛烈なハブーブ

スーダンでは雨季前に必ずハブーブと呼ばれる猛烈な砂嵐が発生し、陸上交通のみならず航空便にも大きな影響が出る。特に、航空便に関しては、ハルツーム空港が閉鎖されることから、フライトのキャンセルや遅延あるいはポートスーダンへの緊急着陸等乗客には多大な迷惑が発生する。例えば航空機が中東の空港を順調に出発してもハルツーム空港でハブーブが発生すれば、着陸寸前であるにもかかわらず、出発空港まで引き返した事例もある。写真6にはハルツーム空港に着陸しようとしている飛行機より撮影した砂嵐の写真を示した。ハブーブの規模は高さ500m以上、長さははるか地平線まで続いていたことから50km以上と想定される。また、写真7には2012年6月にカッサラ州で撮影した砂嵐を示した。

ハブーブは交通のみならず日常生活上に様々な障害をもたらす。特に、コンピューター、コピー機、デジタルカメラ等の事務用機材に微粒子が侵入し、故障の原因になる。このような自然環境に対して、日本人専門家はコンピューターやコピー機には専用のカバーを取り付け、砂塵対策を実施している。この他、ハブーブの砂塵はたとえ近代的なビルの室内であっても確実に侵入し、その清掃には多大な時間と労力を要する。また、クーラーのフィルターにも目詰まりが発生し、これにより、エアコンの能力は大幅に低下する。日本人には厳しいハブーブだが、スーダン人にとっては日常的なものであり、毎回何事もなかったように黙々と清掃を繰り返している。

ハルツーム市街を襲うハブーブ   カッサラ州で発生したハブーブ
写真6.ハルツーム市街を襲うハブーブ   写真7.カッサラ州で発生したハブーブ(木村氏撮影)

1-3-3. 雨季の洪水と交通事故

ナイル州はハルツームより北部に位置しており、年間降水量は100mm以下である。しかしながら、雨季の短い期間に発生した集中豪雨によって、ハルツームから134km付近に大洪水が発生した。ワディは堤防を越え、広大な道路沿いの平原を布状に水没させていった。その後洪水は、道路を約10kmにわたって冠水させ、スーダンの大動脈である国道は大型バスやトラックで大渋滞となった。
冠水した道路で最も恐ろしいのは道路の幅が濁流によって全く識別できないことである。その結果、路肩を超えたトラックが横転する事故が多発する。ただし、この事故はスピードを出していないために死亡事故には至らないが、積荷は濁流につかる為に販売できなくなる。この他、雨季には水分を大量に含んだ未舗装道路が泥濘化し、トラックがスタックする頻度も高まる。
スーダンの雨季は気温が下がる為に比較的快適な時期となるが、雨季の期間中における舗装されていない地方道路の走行は極力避けるのが賢明である。

ワジ(涸川)の濁流の様子   洪水は布状に広範囲を水没させる
写真8.ワジ(涸川)の濁流の様子  写真9.洪水は布状に広範囲を水没させる
路肩を見失い横転したトラック  軟弱化した道路でスタックしたトラック
写真10.路肩を見失い横転したトラック  写真11.軟弱化した道路でスタックしたトラック