第1章 スーダンの多様な自然

1-1. 地形

1-2. 地質

1-3. 気候

1-4. 植生

1-5. 地下水

1-6. ナイル川

1-7. 青ナイル川

1-8. 白ナイル川

1-9. アトバラ川

1-10. ナイル川の中州

第2章 様々な水関連施設

2-1. ダム

2-2. 灌漑施設

2-3. ハフィール

2-4. 井戸

2-5. 浄水場

2-6. 海水淡水化施設

第3章 地方と都市の水事情

3-1. 地方給水

3-2. 都市給水

3-3. ミネラルウォーター

3-4. 漏水

第4章 各州の水事情

4-1. 北部州

4-2. 紅海州

4-3. カッサラ州

4-4. センナール州

4-5. 白ナイル州

4-6. 青ナイル州

4-7. 南コルドファン州

4-8. ダルフール地方(1)

4-9. ダルフール地方(2)

4-10. ダルフール地方(3)

4-11. 画期的なハワタプロジェクト

はじめに

参考文献

1-2 地質

1-2-1. 先カンブリア時代

現在のアフリカ大陸は生命が誕生するカンブリア紀(約6億年前)以前に安定化した大陸地殻である。アフリカ大陸はマグマによる形成後、造山運動などによる影響を受けずに安定化した地球史の中でも古い陸地である。そのため地質学用語では安定陸塊(クラトン)と呼ばれる。アフリカの中でもカラハリ剛塊、コンゴ剛塊、および西アフリカ剛塊と呼ばれている安定陸塊は、特に古く約30億年以上前に形成された大陸地殻である(図1参照)。現在のスーダンが位置しているアフリカ北西部は約7億年前に汎アフリカ造山運動を受け、その後、安定陸塊となった。現在、これらの安定陸塊を構成する花崗岩および変成岩が露出する地域は地表の侵食が進み、台地や準平原、構造平野などを形成している。大陸の基盤となる地質であるため、「基盤岩類」と総称されることもある。

図1.ゴンドワナ大陸 (出典:世界の地質、岩波書店、1988)
図2.スーダンの地質図
(出典:The Geology of the Sudan Republi.1971)

その後、アフリカ大陸は古生代のペルム紀(約3億年前)から三畳紀(1億8000万年前)にかけて、他の5大陸と共に一つのパンゲア大陸を形成していた。パンゲア大陸は1億8000万年前頃から分裂し、現在のアフリカ大陸はかつて南極、南米、オーストラリア及びインドとともにゴンドワナ大陸を形成した。このように大陸が離合集散を繰り返すことはウェゲナーによる大陸移動説、その後のプレートテクトニクス理論により証明されている。現在では、大陸を動かす原動力は地下2900kmの深度にある核とマントルの境界から上昇した高温のマントル物質(プルーム)であると考えられている。

図2にはスーダンの地質図を示す。地表に露出する先カンブリア時代の基盤岩類(変成岩類、花崗岩)はスーダンの北部州の東部から紅海州からカッサラ州一帯、北コルドファン州から南コルドファン州(Nuba山地)一帯及び、西ダルフール州から南ダルフール州一帯に分布している。他の地域は、基盤岩類を新生代の堆積岩、火山岩及び中古生代の堆積岩が覆っている。


1-2-2. 古生代から中生代の地質

図3.ゴンドワナ大陸概略図 (出典:Wikipediaより抜粋)
 
図4.白亜紀前期の古地理図
(出典:東アフリカ石油資源開発基礎調査団報告,1974より抜粋)

パンゲア大陸の分裂が約2億年前ないし約1億8000万年前に始まり、ローラシア大陸とゴンドワナ大陸の間にテチス海(古地中海)が生まれた(図3参照)。このテチス海から南に枝分かれし、インドとアフリカ大陸の間にも海域が形成された。この海域はジュラ紀から第三紀にかけて海進や海退を繰り返し、暖かい環境下の浅い内湾にはサンゴ礁などを起源とする石灰岩、ドロマイトなどが形成された。

図4に白亜紀前期の古地理図を示す。スーダンはこの頃、大陸縁辺の堆積環境にあった。大陸縁辺には山地から供給される砕屑物(砂や礫など)が厚く堆積した。スーダン、リビア、エジプト及びチャドの4ヶ国にまたがり広く分布するヌビア砂岩層はこの時期に堆積した大陸縁辺堆積物が起源である。その分布面積は約220万km²と広大であり、厚いところでは層厚5000m以上になる。このヌビア砂岩中には数万から数十万km³規模の化石水が蓄えられているとされる。化石水と呼ばれるのは、これらの地下水の涵養時期が10万から100万年前であることによる。水の年代は同位体分析により、明らかになっている。このヌビア砂岩はスーダンにおいて、北部から西部にかけて広く分布している。北ダルフール州ではヌビア砂岩中の帯水層に井戸を掘削し、数百mの深度から地下水を汲み上げている。また、カッサラ州南部にもヌビア砂岩層に対比される砂岩層が分布している。

1-2-3. 新生代

第三紀(約3000 万年前)になると、現在の紅海、エチオピア及びケニアにおいて、深部から集中的な熱の供給が続き、一帯の大地が隆起し始めた。その後、地下深部の熱を運ぶ上昇流により地殻は引っ張られ、平行な階段断層を生じて陥没した。この陥没帯はアフリカ大地溝帯と呼ばれている。大地溝帯は東部アフリカの南北6000km にわたって分布する。陥没後、継続して供給される熱により、大規模な火山活動も起きた。地溝帯の両側には噴出した火山岩類が広く分布する。

図5. スーダン国と大地溝帯の位置関係
(出展:世界の地質、岩波書店、1983)

図5には東アフリカにおけるアフリカ大地溝帯の位置と火山噴出物の分布範囲を示した。スーダン東部のカッサラ州南部、ゲダレフ州北部に分布する玄武岩はこの時代に噴出した溶岩であり、基盤岩類、中古生代の砂岩を薄く覆っている。スーダンからエチオピアにかけての断面図を図6 に示す。この断面図からも明らかなように、起伏の激しいエチオピア高地(大地溝帯の活動による隆起帯)と対照的に、スーダンでは平地が広がっている。スーダン西部のダルフール地域には南スーダンが独立後、スーダンでの最高峰となったMarra 山(3088m)が存在する。Marra 山の最近の噴火は約3500 年前とされ、玄武岩質の溶岩を噴出して、デリバクレーター(外径5km から8km)が形成された。現在クレーターは火口湖となっている。

図6. スーダンからエチオピアにかけての地形断面図
(A-A' 断面、B-B'断面をGoogle Earthにより作成)

1-2-4. スーダンの石油資源

図7. スーダンの石油資源分布
(出展:JOGMEC「東アフリカの石油・天然ガス」)

スーダンの油田はリフト型堆積盆地内に存在する。堆積盆地とは中央部に厚い堆積物がたまっている盆地状の沈降域のことを指す。堆積盆地中央の基盤は正断層により段差が生じ、凹地の溝が存在している。スーダンの油田地帯周辺の堆積盆地は中生代から第三紀にかけて連続する陸成堆積物によって、これらの凹地が充填されることによって形成された。

スーダンの主なリフト型堆積盆地は南コルドファンから南スーダンにかけて分布するムグラッド盆地、ナイル川流域に分布する上部ナイル堆積盆地の二列存在する(図7 参照)。ムグラッド盆地にはスーダンの主要油田である、アブガブラ油田、ヘグリグ油田が存在する。この一帯に分布する湖沼成頁岩であるアブガブラ層が原油の根源岩となり、原油は河川成砂岩のベンチウ層中に貯留されていることが報告されている。