モロッコの水物語
(その実態に迫る)
元JICA専門家 上村三郎 (技術士)

-3.山岳地域における水運搬料

アガディールに開設した水支援センターの主要な活動に地方電化で使用しなくなった発電機やソーラーシステムを未電化地域の村落に移設する作業がある。この作業は非常に困難を極め、村落側と直接交渉してもなかなか回収に理解を示す村落は非常に少ない。そのために各県知事に対して、状況を説明し、迅速な対応を求めてきた。各県知事は前向きな発言をしてくれたものの、逆に協議のテーマを旱魃対策への協力を要請された。これはアガディール地方において2007年の降水量が極端に少ないために、実績のある日本に対して、給水車の調達を大使館に要請したのであった。そして、この要請内容を確認するために20076月末に現地調査を行った。その結果、山岳部の村落住民は異常に高額な飲料水を購入していることが判明した。

都市部と村落部の飲料水の価格に関しては、村落に給水設備が完備している場合、その格差は殆ど無く、給水単価は8DH/㎥程度である。しかしながら、これが給水車でのサービスとなれば極端に高額な料金設定となる。例えば、ラバトにおける私の家の水使用量は月22㎥程度であり、この費用は約180DHである。これに対して、給水車のサービスを受けている村落は4.5㎥の水を平均300DHで購入している。水単価に換算すると私の場合が8.1DH/㎥に対して、村落では66.7DH/㎥と8.2倍もの費用となる。ただし、給水車によるサービスは水の運搬距離に比例して高くなっており、最大800DHもの料金を支払っている村落も存在する。この場合、ラバトの平均的な水単価の約22倍にもなる。旱魃の厳しい村落は法外な飲料水料金を長期に渡って支払い続ける必要があり、現金収入の少ない村落の大きな負担となっている。また、4.5㎥の飲料水がどの程度の日数家族を維持できるかに関しては、平均20//人、1家族を6人とすると120ℓが毎日消費されるが、これに家畜の飲み水分を加味すれば1日最低でも200ℓは使用するであろう。つまり4500/200ℓ=22日分しか確保できないことになり、実質上の月別水単価の都市部との格差は更に拡大することになる。

このような飲料水確保に関する地域格差がモロッコ南部では未だに数多く存在しており、その早急な是正が求められている。


-16Chitouka Ait Baha県における給水車のサービス料

 

一方で、給水車で飲料水を確保する必要性のある村落は多くの場合が幹線道路から外れた未舗装の道路しかない。これらの道路は急な坂道やカーブ及び凹凸が激しく、僅かな距離でも長時間を要する。特に、飲料水を満タンにした給水車の走行速度は20Km/時以下となり、1日に活動する水運搬の大きな制約となっている。

  図‐17にはChitouka Ait Baha県で給水車のサービスを受けている517村落の水源からの運搬距離を示している。最も高い頻度を示したのは1020Kmの村落であり、ほぼ200箇所存在している。次は2030Km圏内の村落であり、これは120村落に近い。場所にもよるが、30Km圏内の村落では最大12回のサービスが限界であり、これらの村落では給水車からのサービスの順番をめぐり度々住民同志の水争いが生じるそうである。

  一方で、データには水源から50Km以上も離れている村落が34村落も存在している。中には90Kmの村落が3箇所あり、これらの村落への給水サービスは長時間かかり、その結果、高額な水を購入することになる。

 

-17Chitouka Ait Baha県における給水車の運搬距離

 

写真-31.民間の高額な給水サービスと草の根無償で供与された給水車

 



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