モロッコの水物語
(その実態に迫る)
元JICA専門家 上村三郎 (技術士)

-2.ダムの建設適地

モロッコの地質構造はアフリカ大陸がユーラシア大陸と衝突した際に、古地中海に堆積していた海底堆積物が隆起し、北東から南東にかけてアトラス山脈が形成された。その結果、比較的軟弱な泥岩層は侵食が進み、硬い砂岩層や石灰岩層が残り、雄大な景観をかもし出している。このような地形や地質はダムの建設を考えた場合には、非常に有効な貯水を確保できる条件となっているが、乾燥化が進み、殆ど森林が消滅した現状においては、河川とは名ばかりであり、表流水のない広大な河川敷だけが広がっている。

 例えば、Tata地方にダムを建設する計画がある場合、 専門家はまず現地調査を行い、図-10に示すような地形の場所を選定するであろう。 この場所には南北方向に河川が発達しており、しかも東西方向の山脈を縦断していることから、峡谷部にダムを建設すれば 大量の水を貯水できるはずである。ところが、この地域の年間降水量は50mm以下であり、川は1年に1回程度しか流れず、当然のことながらダムに水が溜まることは無いであろう。 このように乾燥地域には地形的に最高級のダムの適地が数多く分布しているものの、絶対的な降水量が少ないために通常のダムでは なく地下ダムを検討せざるを得ない。


-10.ダムの理想的な地形上の適地

-11.ワルザザットのダム

これに対して、同じ乾燥地域のダムであっても上流側に高い山脈がある場合にはダムの水が十分貯水される。図-11はワルザザットの下流部に建設されたMansour Eddahbidダムの貯水域を示している。このダムの上流には高アトラス 山脈が位置しており、そこから無数の河川が流下しているために、乾燥地域にあってもダムは満水になるのである。

一方、Tata地方で表流水が年間を通して確認できる河川は非常に限られており、その中の代表的な川がDra川支流のTissnit川である。しかしながら、この恵まれた水量を有する川には水質的な問題があり、塩分濃度が0.36(一般的な地下水は0.02%以下、ちなみに海水は3.56)と非常に高くなっているのである。また、下流域は塩分に強いナツメヤシが栽培されているものの、その農地には塩類集積が見られることから、長期的には農地が消滅する可能性が高い。仮に、この場所にダムを建設すれば確実に貯水されるであろう。しかしながら、原水の塩分濃度が高いことから、これを除去する脱塩装置が必要であり、仮にこの方法で飲料水や農業用水を供給しても経済効率が悪く、利用者は限定されるであろう。


写真-28.高い塩分濃度の川と上流部の様子

 

   モロッコにはダムの建設適地が数多く分布しているものの、その場所が乾燥地、あるいは水質的に問題がある等必ずしも条件が揃っているわけではない。その結果、特定の流域にダムが集中することになり、その代表がSebou川やOum Er Rbia川である。この2河川流域でモロッコ全体の50%近くの水需要を賄っている現状は、可なり河川や流域の負担を重くしているといえるであろう。それでも、確実な水源を確保するにはこの流域に今後も依存せざるを得ないのがモロッコの現状である。


-12.流域別のダムの個数と水利用の割合

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