モロッコの水物語
(その実態に迫る)
元JICA専門家 上村三郎 (技術士)

-4.河川の特徴

ラバトから大西洋岸に沿って南のTiznitまでの約700kmの区間において、100km以上の河川長がある川は北から順に、Mellah川、Oum Er Rbia川、Tensift川、Sus川及びMassa川の5本のみである。この数は日本と比較してあまりにも少ないと言える。例えば東京から西に700kmといえば広島県に相当するが、この区間には、一級河川だけでも20本はある。これに対して、モロッコは上記の5本のみであり、この内、年間を通して確実に河口まで流出しているのは、Mellah川とOum Er Rbia川のみであり、その他は洪水の時にだけ流れを有する季節河川となっている。

-5.モロッコと日本の河川の比較


次に、河川長に着目してみると日本には400kmを越す長さの河川は無く、最長は信濃川の367kmである。これに対して、モロッコではOum Er Rbia川(556km)を最長とし、Moulouya川の520km500kmを越す河川が存在する。さらに、河川長だけを議論するのであれば、高アトラス山中に水源を有し、ザゴラ近郊で西流、最終的には大西洋に流出する(していたと表現するのが正解)Dra川は1,600kmにも達している。この他に、同じく高アトラスからエルラシーディアを経由してサハラ砂漠に消滅しているZiz川も地図上から判断すれば1,000kmを越す「大河」である。しかしながら、これらの河川は河口まで流れることのできない涸れ川であり、一定水量があるのは水源に近い上流部のみである。当然のことながら、モロッコ政府はこの水資源を有効活用するために上流部に大規模ダムや洪水灌漑用の取水堰を建設してきた。その結果、地下水を涵養してきた洪水は大幅に少なくなり、流域のオアシスが衰退する現象が顕著となってきている(特にDra川流域の被害が深刻である)。

一方、モロッコと比較して短い河川の多い日本ではあるが、その流量は圧倒的に多くなっている。特に降雪量の多い、日本海側の河川流量はモロッコで最大流量を有するSebou川の2倍以上の年間平均流量を有している。つまり、モロッコの川は流域面積、河川長とも日本の河川を大きく上回っているが、肝心な流量に関しては逆に半分以下となっている。このことが、将にモロッコの水資源を考慮する場合に重要なポイントとなる。

それでは水質はどのようになっているのであろうか。当然のことながら日本の河川の水質が良好である。まず、日本の河川は長さが短い割には水量が豊富であり、汚染物質が希釈しやすく、しかも河床勾配が大きいことから短時間のうちに海洋まで流出する水循環の早い河川となっている。これに対して、モロッコの河川は水源部の地質が石灰質であり、カルシュウムと塩分濃度が比較的高く、しかも水量が少ないために汚染されやすい傾向にある。特に、モロッコの内陸部の都市は下水を未処理で河川に放流しているために、この水を下流部で取水せざるを得ない地域では飲料水の処理コストが高くなる。このような状況をいつまでも放置すれば、安全な飲料水の供給は益々困難になるが、最近モロッコでもようやく下水処理関係のプロジェクトが本格化しており、河川の水質の改善が期待できる状況になりつつある。

 

 

写真-7.蛇行するSebou川河口部  写真-8.下水化したTensift


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