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スーダンの水事情

様々な水関連施設-井戸

広大な国土を有するスーダンには様々な井戸が建設されている。また、スーダンと南スーダンでは井戸の種類も異なっている。具体的にはスーダンが動力ポンプ主体であるのに対して、南スーダンはハンドポンプの割合が多くなる。このようにスーダンでは井戸の構造からもスーダンと南スーダンの格差を説明することが可能である。この章ではスーダンの井戸の特徴と施設の維持管理に関する課題及び井戸の品質と寿命の関係を説明する。図1にはハンドポンプ付き井戸と動力ポンプ付き井戸の構造図を示している。

図1.ハンドポンプ付き井戸(左)と動力ポンプ付き井戸(右)の構造図(出典:PWC)

写真1.ハンドポンプを利用する住民

写真2.日本が1987 年に建設した井戸

2-4-1. 機材の有効活用

スーダンの井戸の特徴を説明する前に、日本が1987年から3年間実施したスーダンにおける無償資金協力プロジェクトで調達した機材の現状を説明する。このプロジェクトはエリトリア難民の救済を目的に実施された日本の無償資金協力であり、対象となった場所はゲダレフ州とカッサラ市であった。 ここで注目されるのは、1986年に調達された井戸掘削機がいまだに現役で使用されていることである。専門家は、2010年にプロジェクトで使用していた井戸掘削機が現在も使用されている現場を視察し、スーダン人の機材の維持管理能力の高さに大変驚いた。スーダンは西側の経済制裁を長年受けていたために日本からの純正部品を調達することはできなかったが、様々な工夫をして掘削機を大切に使用していた。そして、これらの機材を活用して数多くの井戸を建設してきた。このように、スーダンの人々は外国の援助で供与された機材を大切に使用する意識を有しており、この点は高く評価できる。

写真3.稼働中の日本製の井戸掘削機

写真4.稼働中のクレーン付きトラック

2-4-2. スーダンの井戸の特徴

スーダンでは表流水に恵まれているナイル川の沿岸を除き、殆どの地域で井戸を掘削し、地下水を水源とした飲料水供給が実施されている。これは乾燥したスーダン北部のみならず比較的降水量の多い南部でも同様である。また、スーダンの井戸は機械掘削で建設されており、モロッコのような大口径の手堀の井戸は少数と言える。井戸水を揚水する方法には、ハンドポンプ、エンジンポンプ、風力ポンプ、水中モーターポンプ及びソーラーポンプがある。これらの内、ハンドポンプの井戸の深度は50m程度であり、また、井戸の口径も6インチ以下である。スーダンではハンドポンプは少数であるものの、例えば、青ナイル州、ダルフール地方や南コルドファン州等ではその割合が増える傾向にある。

一方で、動力ポンプ付きの井戸はスーダンで広く普及しているものの、現状は性能の高い水中ポンプよりも故障の多いエンジンポンプが主体となっている。これらの井戸の口径は6インチ以上となっており、井戸で最も重要なスクリーンパイプは巻き線(ジョンソンタイプ)となっている。動力ポンプ付き井戸の深度はその地域の帯水層の深度分布によって大きく異なっている。例えば、ハルツーム周辺では100mの井戸で豊富な水を確保出来る。しかしながら、青ナイル川と白ナイル川の中間に分布する帯水層は上部層の塩分濃度が高く、淡水は250m以下からしか取水できない。また、ダルフール地方での調査報告書によれば、この地域には450mを超す井戸が掘削されている。この他、カッサラ市ではガシ川の良好な沖積層によって40m以内でも大量の井戸水を揚水することができる。

スーダンでは地方電化が急激に進んでおり、発電機が無くても商用電源で井戸水を汲み上げることができるようになっている。しかしながら、スーダンでは電気料金が高額であり、電気が供給されている村落でも旧式のエンジンポンプや発電機が動力源として使用されている。また、近年においてはソーラーポンプシステムも導入されている。スーダンのように晴天が多く、太陽光に恵まれている国においてはソーラーシステムの可能性は高く、ハルツーム南部に立地している科学技術省のソーラー研究所では飲料水供給のみならず様々な分野へのソーラーの普及を実施している。

写真5.エンジンポンプ付き井戸

写真6.ソーラーポンプの井戸

2-4-3. 施設の維持管理

スーダンの井戸の維持管理には多くの課題がある。その最大の問題は村落住民による施設や機材の維持管理システムが十分機能していないことである。これはシステムの問題でありスーダン国民の能力が低いことを示すものではない。例えば、他のアフリカ諸国で村落給水プロジェクトを実施する場合、最初に確認されなければならない項目は、施設完成後の維持管理に対する村落住民の意識の有無と水管理委員会設置の可能性である。この課題が解決されて初めてプロジェクトの対象村落として選定される。しかしながら、スーダンでは施設の運営維持管理を州の水公社が実施しており、村落住民は水道料金を支払うのみで、住民が維持管理に関与することはない。その結果、利用者である村落住民の給水施設に対する関心は低くなる。したがって、このシステム自体を今後他のアフリカ諸国と同様にすることが重要である。

次に問題となるのは、施設を管理している州水公社の弱体化である。弱体化の背景には様々な要因がある。具体的にはスタッフの不足、巡回用車両の不足、修理工具や機材の不足、給料の遅配等である。この他、コンピューターが不足していることから、既存の村落のデータが手書きのまま散在している。そのため、問題の発生した井戸や施設のデータを迅速に入手できず、事前に十分な準備をすることもなく、現場に出向き、無駄な作業を実施する事になる。

日本は現在スーダン各地で給水分野他の人材育成プロジェクトを積極的に展開している。その中には、州水公社への機材供与や管理能力の強化も含まれている。これらの プロジェクトを通して、スーダンは少しずつではあるが、維持管理能力を高めつつある。

写真7.日本が1987 年に建設したタンク

写真8.南コルドファンの給水施設

2-4-4. 井戸の品質と寿命の関係

日本はこれまでアフリカ地域において30年近くにわたる井戸建設を前提とした村落給水プロジェクトを実施してきた。しかしながら、1990年代の半ばころより井戸単価の国際比較が活発に議論されるようになった。この種の議論においては前提条件として、入札方法や施工の違い、井戸の品質や寿命が検討されなければならないが、国際機関や他のドナー及びNGOからは「何故日本が建設する井戸は高額なのか。我々であればもっと安く数多くの井戸を建設できる」とするコスト論争となり、井戸の品質に関する議論が不十分なまま現在に至っている。

表1にはダルフール3州における井戸の現状を示している。この表からも明らかな様に多くの井戸が稼動していないことが分かる。ダルフールでは長期にわたる紛争で、十分な井戸の管理が実施できなかった背景もあるが、井戸が使用不能になるのは何も維持管理だけの問題ではなく、井戸そのものの設計や施工方法に問題があることもしばしば確認されている。つまり、井戸は地中に建設される構造物であり、専門家以外に井戸の品質を調査することはできない。日本は長年にわたってアフリカ諸国を主体に数多くの井戸を建設しているが、井戸自体にクレームが出された案件は極めて少数と言える。

ポンプと井戸の状況/州名北ダルフール南ダルフール西ダルフール
  動力ポンプの設置された井戸本数23255088
  稼働中のポンプと井戸本数19527570
  稼働していないポンプと井戸本数376618
  廃棄された井戸本数3720918

一般的に低品質の井戸は寿命が短く、飲料水供給計画の目的を一時的に達成したとしても、短期間で使用不能になるケースが増大する。逆に、高品質の井戸はポンプを取り換えて、定期的な改修工事を実施すれば長期間の使用が可能であり、多くの村落住民が求めているのはまさにこのような安定した飲料水を供給できる井戸である。

専門家はスーダンの南コルドファン州で、ある国際機関が積極的に建設してきたハンドポンプ付き井戸を調査した。その結果、10年間で83本の井戸が完成したものの、現在稼働中の井戸は僅か4本のみであった。これに対して、スーダン東部のカッサラ州やゲダレフ州に日本が建設した井戸は現在も稼働中である。このような事実はスーダン以外でも確認されており、「日本の井戸建設費用が高すぎる」との「風評被害」に対して、十分反論できる材料である。「安くて品質の悪い井戸」を数多く建設することがどれ程村落住民に苦痛を与えかつ費用対効果が低いかを関係者は再認識する必要がある。

図2.井戸の品質と寿命の関係

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