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スーダンの水事情

各州の水事情-北部州

北部州はスーダン最北部の州であり、北はエジプト、北西部をリビア、東部はナイル州、そして南部を北ダルフール州、北コルドファン州及びハルツーム州に囲まれている。州の面積は34.8万kmであり、これはほぼ九州を除いた日本の面積に相当する。人口は約78万人となっており、州都はドンゴラ市である。

この州には7つのロカリティー(①Halfa、②Dalgo、③Burgeig、④Dongola、⑤Golid、⑥Debba、⑦Merowe)が設置されているが、ロカリティーの境界は極めて人為的な直線状になっている。これはこの州がナイル川沿岸以外にほとんど村落が存在せず、州の全体が土地利用のできない広大な沙漠となっているためと考えられる。逆にナイル川沿いでは豊富な河川水や地下水が得られることから、肥沃な農地が沿岸に広がっており、各種農作物が栽培されている。また、数多くの農業生産性の高い中洲が分布するのも北部州の特徴である。エジプトにも近く、しかも肥沃なナイル川沿いの農地が確保できることから、北部州には古代遺跡が点在している。

写真1. ナイル川沿いのオアシス

写真2. ナイル川本流

写真3. ナイル川の砂丘地帯

写真4. Kerma の歴史博物館

写真5. Kerma の古代都市遺跡

写真6. Meroweのピラミッド

4-1-1. 人口

北部州の人口は2013年の推定値で約78万人となっている。最大の人口を有するロカリティーは北部州の最南端に位置するMeroweの約17.6万人、次が州都のあるDongola17.1万人となっている。また、最も人口の少ないロカリティーは州最北端のHalfaであり、このロカリティーの中心都市であるワディ・ハルファ市は約1.4万人となっている。北部州は広大な面積を有しているが、集落はナイル川沿いに集中しており水源の確保は比較的容易である。また、豊富な地下水に恵まれていることから北部州は給水プロジェクトを実施しやすい州とも言える。

4-1-2. 地形・地質

図1.北部州の水利地質図

北部州は南部と北部地域に先カンブリア時代の基盤岩(変成岩と花崗岩)によって構成された山地が見られるものの、それ以外は基本的に起伏の少ない沙漠が広がっている。また、この地域はスーダンで最も降水量が少ないことから、雨水による浸食が少なく、テーブルマウンテンも見られる。

ただし、北部州は広大なサハラ沙漠の東端であり、移動を繰り返す大規模な砂丘が形成されている場所もある。北部州の中央部にはナイル帯水層と呼ばれる豊富な地下水がヌビア砂岩に貯留しており、ナイル川の沿岸では積極的な地下水開発が実施されている。

写真7. 州都のドンゴラ市

写真8. 最北端のワディ・ハルファ市

写真9. エジプトとの国際航路

4-1-3. 降水量

北部州の主要都市には気象観測所が設置されており、降水量や気温を観測している。ただし、この州はスーダンで最も乾燥している地域であり、雨季である8月に若干の降水があるのみで、1年中高温で乾燥している。2013年3月に訪問した北部州最北端の都市であるワディ・ハルファ市での聞き取り調査によればこの地方は2009年より降水がないとのことであった。それにもかかわらず、ナイル川沿いに広大な農地や緑地が形成されているのはまさにナイルの賜物と言える。

4-1-4. 北部州の水事情

北部州はナイル川沿いに都市や村落が集中していること及びヌビア砂岩層に豊富な地下水が貯留しているために水源の開発が他の州よりも容易と言える。その結果、2008年のスーダン全体の給水普及率によれば、北部州はハルツーム州、エル・ゲジーラ州に次いで高い給水普及率となっている。特に、村落部の給水普及率に関してはハルツームに次ぎ、87.2%となっている。

図2. スーダン各州における都市部と地方部の給水普及率 (出典: 国営水公社)

4-1-4-1. ウォーターヤード

図3.北部州に建設されているウォーターヤードの分布

スーダンでは井戸を水源とする給水施設をウォーターヤードと称しており、北部州のウォーターヤードはナイル川沿いに数多く建設されている。一般的に、北部州の井戸の口径は10インチ以上であり他の州と比べて大きくなっている。

井戸管理担当の専門家は北部州水公社から入手した井戸データを基に、北部州の井戸状況について分析を行った。その結果、北部州の井戸の特徴が明らかとなった。

(1) 井戸の分布と掘削深度

井戸の分布に関して北部州は、住民の居住地域がナイル川沿いにほぼ限られていることから、井戸もナイル川沿いにそのほとんどが掘削されている。また、井戸の掘削深度は最浅のもので34m、最深では296mと幅広く、下の図表に示したとおり深度100m前後(80mから120m) の井戸が全体の44.8%を占めている。

図4. 北部州の井戸深度

写真10. 水源用井戸の様子

写真11. ウォーターヤードの様子

写真12. ポンプの運転記録簿を見せる
水管理委員会のスタッフ

(2) スクリーンの深度と水位

井戸に設置されたスクリーンの位置を分析した結果、地表面下60mから120mの範囲が最も多く、この地域の主要な帯水層はこの範囲に分布し、井戸もそれを対象として掘削されていることがわかる。自然水位は、ごく少数の例外を除き、地表面下2mから36mの範囲にあるものの、地表面下10m前後が最も多く、6mから14mの範囲の井戸が64.7%を占めている。その結果スクリーンの位置は、多くの場合この自然水位の深度より深くなっており、この地域の地下水が被圧された帯水層から取水されていることがわかる。

(3) 揚水量と地下水の水質

揚水量は約半数(48%)が40から50m³/時となっており、7割の井戸が20から50m³/時の範囲にある。これは一日8時間のポンプ稼動で160から400m³/時の水量が確保でき、井戸周辺の住民の生活用水需要を十分まかなうことが出来る揚水量となっている。水質に関してはTDS(Total Dissolved Solid:蒸発残留物)が入手できたためにこの値を分析した。分析の結果、北部州の地下水はおおむね100から360ppmの範囲にあり、それ以上の値は例外的なものであった。日本の水道水水質基準では500mg/ℓ(≒ ppm)となっており、TDSから見る限り比較的良好な水質であるといえる。ちなみにアフリカで広く使用されているWHOの水質基準では1000mg/ℓ(1984年版)となっている。

図5.北部州井戸の揚水量

図6.北部州井戸の蒸発残留物

4-1-4-2. 浄水場

北部州にはナイル川が南から北に向かって流下していることから、その沿岸の都市では大小様々な浄水場が建設されている。しかしながら、各浄水場を視察すると、施設の老朽化や維持管理不足、不適切なパイプの設置など様々な課題を抱えていることが明らかとなっている。具体的には、ナイル川の大きな水位変動に対応するために多くの取水施設は小型船によるフロートタイプになっている。この小型船は老朽化が激しく、しかもフレキシブルパイプが水位変動に対応出来ず、漏水している。これは、ナセル湖から取水しているワディ・ハルファも同様であり、ここではポンプの水圧に対して、フレキシブルパイプの強度が不足しているために漏水が生じている。この他、適正な部品調達が実施されていないために、パイプの接続部には必ず漏水が発生している。北部州水公社スタッフの能力は他州と比較しても平均以上であるが、ここでもスタッフの能力以上に水道事業そのものが課題であり、十分な維持管理費を確保出来なくなっている。この種の問題はスーダン全土で一般的に見られる。

北部州には2009年にエジプトのAswan Highダムに次ぐ大規模なMeroweダムが完成した。このダムは現在10基のタービンを有するスーダン最大の発電専用ダムとなっている。また、将来的には下流側への灌漑や飲料水供給も計画されている。事実、現在小規模とはいえ、ダム関係者の居住地区に対してはこのダムから高度な浄水処理をした飲料水が供給されている。このように北部州水公社が既存の施設を更に充実させれば、下流側への飲料水供給は大幅に改善されるとともに、個別に設置されている浄水場に対する維持管理費も確実に削減可能となるであろう。

写真13. 老朽化した取水施設

写真14. 耐圧強度の不足で漏水するパイプ

写真15.タイヤのチューブをパッキンとして
使用するも、漏水は止まらない

写真16. パイプ接続部の木杭

写真17. 緩速ろ過施設

写真18. 発電専用のMeroweダム

4-1-4-3. 水道料金

専門家はエジプトと国境を接するスーダン最北端の都市であるワディ・ハルファ市を調査した際に、水道料金を分析する機会を得た。この町の水道局によれば、月当たりの平均水道収入は10万SDGとなっている(表2参照)。これに対して、支出は電気料金と人件費がそれぞれ40%となっており、維持管理費は僅か20%のみである。また、この町も他の多くの水道局と同様に、水道メーターは設置しておらず、パイプの口径に応じた定額制となっている。水道料金は州政府の指導により2001年より値上げされておらず、しかも人件費もほぼ同様な状況にある。これに対して、電気料金と部品や機材などの料金は確実に値上がりしている。人件費の12年以上にわたる据え置きは水道局スタッフのモチベーションを著しく低下させている。仮に高いモチベーションを有していたとしても、年々高騰する維持管理費や部品の調達を確実に実施する事は不可能となっている。このような厳しい水道経営はスーダンで広く見られることであり、電気料金の水道事業部門の値下げ、あるいは水道料金の適切な価格設定が不可欠な理由となっている。

表2. ワディ・ハルファの月別水道料金の収支
収入 分類 口径(inch) 単価(SDG) 対象家屋 合計(SDG)
1級
2級
3級
官庁
その他
1
3/4
1/2
2
不明
20
17
15
50
不明
50
1200
3000
50
不明
1,000
20,400
45,000
2,500
31,100
合計 
4,300100,000
支出
電気料金
維持管理費
人件費(103名)
40,000
20,000
40,000
合計
100,000

4-1-4-4. 農業用水

北部スーダンは完全な沙漠気候ではあるが、ナイル川から簡単に取水できるために、沿岸は非常に豊かな農地が発達している。北部州には州都の対岸に大規模な灌漑ポンプ場があり、ここから下流に広大な農地を潤している。また、沿岸や中洲では数多くのエンジンポンプが設置されており、それぞれ個人所有の農地を灌漑している。エンジンポンプ1台の揚水能力はそれほど大きくはないものの、ナイル川の両岸で多くの農民が取水しているために、その揚水量は相当な量となるものと考えられる。

写真19. ナイル川本流から取水する
大規模なポンプ場

写真20. 延々と続く灌漑用水路

写真21. エンジンポンプから直接取水する農民

4-1-5. 北部州水公社の高いマインド

北部州は1989年に日本の無償資金協力で、配管用パイプ、発電機、ポンプ、高架タンク用資材、井戸掘削機や維持管理用の大型クレーントラックが供与された。そして、州水公社はこれらの資機材を活用して井戸の掘削やウォーターヤードの建設及び配管工事を自ら実施してきた。驚くべきことは、20年以上も前に建設された施設が現在も稼働していること及びクレーントラックなどが未だに現役として使用されていることである。一方で、北部州水公社はスタッフの人材育成にも積極的に取り組み、2013年3月には州水公社の独自予算で研修センターを建設した。このような北部州水公社の自助努力を評価して、日本は研修用機材を供与してきた。今後北部州では本格的な水道技術者の人材育成が実施されることになり、日本人専門家は定期的にこのような州を訪問し指導を継続することになる。

写真22. 日本製の高架タンク

写真23. 日本が供与したトラック

写真24. 北部州水公社の研修センター

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