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モロッコ水物語

モロッコのダム‐大規模ダム

モロッコはアフリカ大陸の中でも、ダムの密度が高い国の一つであり、私が勤務している水利庁の資料によれば、2005年までに113個のダムが建設されている。モロッコ最古の近代的なダムは1929年にOum Er Rbia流域に建設されたSidi Said Machouダムであり、堤高は29mであった(ちなみに日本で最古の近代的なダムは1869年に鳥取県に建設された絹屋池ダムとされている)。モロッコは1912年から44年間フランスの保護領となり、1956年に独立するまでにフランスは僅か13個のダムしか建設していなかった。しかしながら、モロッコは独立後に積極的な水資源開発を行い、1980年代の10年間だけで38個のダムが建設している。その後、ダム建設適地の減少により、ピークは過ぎてはいるもの、モロッコ政府は今後も100個近いダムの建設計画を有している。

図-9.モロッコにおけるダムの建設個数の経年変化

モロッコ最大のダムはSebou川支流のOuergha川に建設されたAl Wahdaダムである。ダムの総貯水量は約38億㎥の規模を有しており、カサブランカのモスク同様、前国王であるハッサン2世の悲願の大規模国家事業として1996年に完成した。モロッコに建設された既存の113ダムの総貯水量は147億㎥(日本は200億㎥)であり、この内Al Wahdaダム1個だけで全体のダム貯水容量の25%を賄っているのである。ちなみに日本で最大の貯水量を持つのは2006年9月25日に完成した岐阜県内の徳山ダム(6.6億㎥)であり、このことからも、Al Wahdaダムがいかに巨大なダムであるかをご理解いただけるであろう。

写真-26.モロッコ最大のAl Wahdaダム(出典:水利庁)

ただし、このダムの38億㎥はいつまでも利用できる容量ではなく、その内12億㎥程度は、恐らく100年以内に上流から運ばれる土砂で埋まってしまう可能性がある。それはダムの上流域には禿山が多く、日本のダムより数倍の速度で堆砂が進むと予想されるからである。このため、堆砂を止めてダムの貯水効率を少しでも高める必要があり、Al Wahdaダムの流域支線や谷に中・小ダムや丘ダムを随所(当初計画では300以上)に造って、砂の流下を阻止し、それと同時に貯留される水を使って農業用水等に活用する事業が計画された。日本は1990年代前半に、この事業を農業開発調査として取り組み、水源開発と農業・農地開発のマスタープラン(M/P)を作成した。このM/P後、日本の無償資金協力でTaounate県に、地域農民の生活用水・灌漑用水等の利用を目的とするGharbiaダムが1998年建設された。
 Gharbiaダムは施工の最終年の雨季に一旦、満水となったが、その 後2年程厳しい旱魃が続き、ダムは満杯にならなかった。この間地元の水管理組合は、 慎重を期してダムの水を利用することはなかったが、2003年 の雨季には再度満水になり農地への使用を始めた。その結果、灌漑を行った農地には青々とした作物が育ち、周り の茶褐色な畑とは対照的な優良農地が出現したのである。

写真-27 Gharbiaダムの様子

最近ダムに対して、長い施工期間と高コスト体質、水没に伴う住民の移転問題、環境破壊の促進等の批判が数多く寄せられている。しかしながら、これらの批判の多くが水資源に比較的恵まれている先進国で議論されており、逆に水資源が乏しい国にとってのダムとは、将に生命を維持するための貴重な財産になっている。モロッコ国内で快適な生活ができるのも一重にダムから安定した飲料水の供給があるからであり、モロッコに関係する日本人にはこの事実を是非認識していただきたいものである。             

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