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スーダンの水事情

スーダンの多様な自然-植生

1-4-1. 気候分類、植生分布

1920年代にドイツの気候学者ケッペンにより世界の植生分布に合った気候分類図が作成された(図1参照)。この分類図は世界を年間降水量と気温の関数により、気候を区分している。スーダンでは年間降水量が北から南に向けて、少しずつ増える傾向にある。これに対して、年間平均気温は海岸山脈と標高の高いMarra高原で低くなるものの、全体的には高い値を示している。ケッペンの気候分類図によるとスーダンの大部分は沙漠気候に属する。アフリカにおける沙漠気候を示す地域としては、北緯20度から30度にかけて分布するサハラ沙漠が有名である。このサハラ沙漠の南縁に分布する年間降水量100mmから600mmの範囲は一般にサヘル地域と呼ばれている。サハラ沙漠およびサヘル地域は緯度とほぼ並行して分布している。サヘル地域はサハラ沙漠よりわずかながら湿潤な半乾燥草原であり、灌木の茂るサバンナへの移行地帯に相当している。サヘル地域は近年、沙漠化が進行している地域であり、1960年代から1980年代にかけて、何度か大干ばつが発生した。

1960年代に作成されたワルターの植生図を図2に示す。この植生図で示される「沙漠」の範囲はケッペンの気候分類図で示す「沙漠気候」よりも若干北側に位置する。沙漠の南側に位置する「乾生樹林」は前述のサヘル地域内に分布しており、例年8ヶ月から11ヶ月の間の乾季が続く。

図1. ケッペンの気候分類図
(出典:Wikipedia)

図2. ワルターの植生図
(出典:吉岡邦二(1973)「植物地理学・生態学講座12」)

1-4-2. 地域ごとの植生の特徴

図3. スーダンの環境分類図

これまで説明してきた気候分類図、植生図及び、地形等を考慮して作成されたスーダンの環境分類図を図3に示す。
以下にそれぞれの地域の特徴を植生と合わせて述べる。

1-4-2-1. 海岸平野と海岸山脈

海岸平野と海岸山脈は全て紅海州に属している。紅海州の気候は地中海性気候であり、他のスーダン諸州とは異なり、11月から1月が雨季となる。ただし、雨季のパターンは地中海性気候であるものの、紅海州は年間降水量が100㎜から200㎜の完全な沙漠気候となっている。海岸山脈は標高約1500mから2700m前後あり、土壌、植生に乏しく、降水時に流下するワディ沿いに、わずかな低木が生えるのみである。

写真1. 紅海州の東部に位置する海岸山脈の様子、1500mから2700mの山々からなる

写真2.雨季の海岸平野

写真3.紅海州北部の海岸平野

写真4.ワディに育つ植物

1-4-2-2. 沙漠、土漠

北部州やナイル州及び北ダルフール州の一部地域の年間降水量は100mm以下であり、これらの州はサハラ沙漠の東限に位置している。この地域には砂丘や土漠が広がり、植生は非常に乏しくなる。ただし、このような厳しい環境でも数日程度の降水があり、この雨を待っていた植物が一気に発芽や開花する。その代表例として野生のスイカがある。この植物はナイル州や北部州の道路沿いの窪地に生育している。
野生のスイカは強烈な苦みを有しており、これを食用にする動物はいない。その結果、テニスボール大の乾燥した多量の果実が道路の窪地に残り、次の雨季まで種子を保存できる。

写真5.野生のスイカ

写真6.苦くて食用にできない

写真7.果実は乾燥し次の雨季を待つ

1-4-2-3. ナイル川の沿岸

白ナイル川と青ナイル川が合流するハルツームから下流部には数多くの中州や河岸に優良な農地が見られる。植生の大きな特徴としては、白ナイル川や青ナイル川の沿岸にあまり見られないナツメヤシがナイル川の両岸には急激に増加することである。特に、ナイル州から北部州にかけてこの傾向が強く、モロッコ等で見られるような大規模なオアシスが発達している。ナツメヤシは高木となって強烈な日射を遮り、その下層部に農作物が栽培されている。代表的な農作物としては家畜の飼料となるアルファルファである。

写真8.北部州のナイル川右岸の
ナツメヤシ

写真9.ナツメヤシとアルファルファ

写真10.ナイル川左岸の密生した
ナツメヤシ林(ナイル州)

ナイル川の本流に接近すれば、タマリスクの木が繁茂している。この木は外見上ヒノキに似ているが、ギョリュ科の植物である。乾燥や塩分に強いために乾燥地域を代表する樹木と言える。スーダンでは北部州のナイル川河床や沿岸にこの樹木が繁茂しており、雨期明けの水位の低下した河床には多数のタマリスクの幼木が発芽する。

写真11.タマリスクの幼木

写真12.成長したタマリスク

写真13.マメ科植物とタマリスク

一方で、ナイル川には様々な湿生植物が見られる。一般的に水位変動の大きな青ナイル川には湿生植物の群落は見られず(ただし、水位が安定しているセンナール州や青ナイル州のダム湖や灌漑水路は別)、これに対して白ナイル川にはホテイアオイやパピルス等の植物が群生している。特にナイル川の舟運に大きな問題を引き起こすのはホテイアオイであり、この植物は船舶のスクリューに絡みつき航行の障害となる。

写真14.白ナイル川の氾濫原の様子

写真15.水草のホテイアオイは厄介な存在である

写真16.湿地にはパピルス等が育つ

1-4-2-4. Marra 高原

Marra高原は中央ダルフール地域に広がる標高約1500mの高原地帯である。この高原の南側は比較的降雨が多く、サバンナの植生が分布している。このため、周辺に比べ農地の開拓が進んでいる。特に、Marra山系から四方に流出しているワディ沿いには、乾季でも比較的土壌水分が高いことから、多様な植生が見られる。また、雨季になれば、河川沿いに密度の高い植生が形成される。

写真17.乾季の Marra山系の様子

写真18.Marra山系から流れ出すワディ

写真19.西ダルフール州の雨季の植生

1-4-2-5. 半乾燥地域(サヘル地域)

年間降水量100mmから600mmの地域であり、スーダンの中央部から南部のサバンナ地域まで分布する。この地域を代表する植物としては、カストロピス・プロケラがある。この植物は北アフリカから中近東一帯の半乾燥地帯に広く分布している。非常に旺盛な繁殖力と深い根茎を有しているためにその駆除は大変な作業となる。また、乳白色の樹液は猛毒であることから、動物はこの植物を食することはない。スーダンの半乾燥地帯にはこのカストロピス・プロケラがいたる所で見られる。

写真20.カストロピス・プロケラ

写真21.旺盛な繁殖力

写真22.開花と果実

1-4-2-6. Nuba 山地

Nuba山地は北コルドファン州、南コルドファン州及び白ナイル州に囲まれた標高1000m前後の山地である。この山地は雨季になると平野部よりも降水量が多く、植生が豊かになると言われている。伝聞的な記載になる理由は、治安上の理由により私たち日本人がこの地域を訪問することが困難であり、実態を把握することができないためである。その最大の理由は、Nuba山地にはアフリカ系の住民が居住しており、しかも彼らはイスラム教徒でないことからスーダン政府が長年にわたり開発支援を積極的に実施してこなかった。その結果、この地域は旧反政府勢力(SPLA/M)に支配されており、現在も不安定な治安となっている。

北コルドファン州や南コルドファン州のヌバ山地の周辺部の状況から推定すると雨季に豊かな植生が回復することは容易に想像できる。


写真25.青ナイル州の乾季 写真23. Nuba山地(雨季)

写真24.Nuba山地周辺(乾季)

1-4-2-7. サバンナ地域

サバンナ地域は南スーダンとの国境付近(青ナイル州および南ダルフール州)に位置し、灌木と草原が広がる。サバンナには鋭い刺を有するイネ科の植物や灌木が見られるが、その詳細な名称を特定することは困難である。サバンナ地域は乾季でも枯れた草木が存在すること、雨季が比較的長いことから植生が豊かになる。その結果、牛の放牧が北部地方よりも多くなる。

写真25.青ナイル州の乾季

写真26.北コルドファン州の雨季の草原

写真27.南ダルフール州の雨季の様子

1-4-3. 樹木類

スーダンを代表する樹木としてはアオイ科のバオバブ、マメ科のアカシアなどがあげられる。バオバブはセンナール州から南の青ナイル州、北コルドファン州及び南コルドファン州を主体に分布しており、しかも直径が2m以上の大木もある。この木は非常に生命力が強く、人為的に切断されても幹から新芽が吹き出すこともある。また、気温の高い地方の樹木には明確な年輪は見られないが、バオバブには粗いながらも年輪が見られる。

写真28.バオバブの大木

写真29.強い生命力のバオバブ

写真30.粗い年輪のあるバオバブ

スーダンには樹皮が白や赤になった多種多様のアカシアが分布している。ただし、アカシアが広く見られる地方はエル・ゲジーラ州以南であり、ゲダレフ州、センナール州、青ナイル州、南北コルドファン州に数多く見られる。

この他スーダンではクルミの木、ゴムの木、そして分布が限られているものの、竹も見られる。特に竹は非常に珍しく、カッサラ市の一部と青ナイル州のエチオピア国境付近に見られる。スーダンの竹は日本の竹林とは全く異なっており、基本的に竹株として群生する。スーダンでは、竹は強度が高いことから建築用として重宝されている。

写真31.新緑を迎えたアカシア

写真32.クルミの木

写真33.ゴムの木

写真34.カッサラ州ガシ川左岸の竹林

写真35. 青ナイル州産竹の運搬

1-4-4. 農作物と果樹

伝統的な天水農業の地域の北限は図3中に示した点線であり、これは年間降水量が約300mmの等値線に相当する。
ナイル川やカッサラ州のガシ川等、豊富な水資源を確保できる地域では灌漑施設が整備され、野菜や果樹などが栽培されている。特にスーダン最大の消費地であるハルツーム市周辺にはこの国を代表する。企業が近代的な冷室で高品質のトマトやキュウリを生産している。また、ナイル川の水を使用した大規模なセンターピポット灌漑ではアルファルファが栽培されている。アルファルファは最新の機械化された搾乳システムを有する施設で飼育されている乳牛の飼料となっている。

写真36.冷室でのトマト栽培

写真37.冷室でのキュウリ栽培

写真38.センターピポット灌漑による

この他、ナイル川の沿岸ではバナナ、玉ねぎ、サトウキビ等が栽培されている。特に、白ナイル川の右岸には大規模な砂糖会社(ケナナ、白ナイル、センナール等)が豊富な白ナイル川の水を取水して大規模なサトウキビ栽培を展開している。

写真39.ナイル川の沿岸の玉ねぎ畑

写真40.青ナイル州のバナナ畑

写真41.サトウキビ畑

一方で、エル・ゲジーラ州、ゲダレフ州及びセンナール州ではソルガムやゴマ、酸味を有するカルカデ、自然種に近いキュウリも栽培されている。これらの地域では根茎寄生雑草の「ストライガ」が大繁殖し、農作物に大きな被害を出している。この問題を解決するために神戸大学とスーダン側の研究機関は「根寄生雑草克服によるスーダン乾燥地農業開発」をスーダン最初の「地球規模課題対応国際科学技術協力プロジェクト」(JICAと科学技術振興機構(JST)の連携による)として実施している。

写真42.ソルガムと厄介な雑草ストライガ

写真43.自然種に近いキュウリ

写真44.雑草に囲まれたとカルカデ

スーダンには様々な果樹が栽培されている。代表的な果樹としては、マンゴー、ライム、グレープフルーツ、ガヴァ等である。マンゴーは土壌水分に恵まれたナイル川の沿岸に高木として栽培されている。西アフリカのマンゴーと比較すると小粒であるものの、甘さはほとんど同等である。また、カッサラ州ではグレープフルーツやライムが栽培されており、特にグレープフルーツは外国人にも人気がある。

写真45.マンゴーの大樹

写真46.ライムの木

写真47.グレープフルーツの木

1-4-5. 外来移入種

1980年代に沙漠化に対処するため、国際機関によりメスキート(マメ科プロソピス)の植林がスーダン国内で進められた。メスキートはもともと、南米原産のマメ科の灌木で、乾燥状況でも地中深くまで根を張り、急速に成長することが特徴である。このため、沙漠化が進んでいたスーダンのサヘル地域において、砂丘の固定化、土壌の生成を目的として積極的に導入された。

しかしながら、その生殖能力の高さから、メスキートは人間の管理できない範囲まで拡大するようになり、想定外の弊害を引き起こした。それらの一例として、地中深くに張った根による周辺の地下水位の低下、種子を食べた家畜の健康被害などが挙げられる。このため、政府は多額の予算をかけてメスキートの除去を実施してきたが、有効な手立てがないのが現状である。最近ではメスキートを燃料として、有効利用する試みが始まっている。

写真48.繁殖力の旺盛なメスキートはスーダン各地に群生している

1-4-6. 漏水と植生

スーダン最北端の町であるワディ・ハルファの水源はナセル湖から取水されている。エジプトとの国境線ぎりぎりの場所に建設されている取水施設から浄水場までは13kmあり、口径20cmの導水管が設置されている。この導水管はプラスティック製であり、強度が不足しているために10ヶ所以上の漏水が確認されている。降水量が殆どゼロに近いこの地域で、突然湿生植物が姿を現している現場がある。
この現場こそが漏水個所であり、乾燥地帯では簡単に漏水個所を発見することができる。

写真49.北部州ワディ・ハルファ市の導水路沿いの漏水個所に発生した植物群落

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