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スーダンの水事情

スーダンの多様な自然-地下水

これまで1-2「地質」の章で述べたようにスーダンでは先カンブリア時代から新生代まで幅広い時代の地質により大地が形成されており、地下水は、帯水層(地下水を蓄える地層)を構成する地質に大きく依存する。すなわち、スーダンにおける帯水層は①ヌビア砂岩層、②ウムルワバ層、③沖積層及び④基盤岩中の亀裂・風化帯の分布範囲とほぼ一致する。帯水層中に蓄えられた賦存量は過去に何度か試算されてきたが、数値の変動が大きいために、最近の報告書をベースに取りまとめた(表1参照)。
スーダン国内で最も地下水の賦存量が多いのはヌビア砂岩層であり、次いでウムルワバ層、沖積層の順である。基盤岩中の亀裂・風化帯中の地下水の実体は判明していない部分が多いものの、その全体量はわずかであるとされる。

層名地質時代特徴賦存量
(百万m³)
涵養量
(百万m³/年)
流出量
(百万m³/年)
ヌビア砂岩層堆積岩中生代
白亜紀
中礫岩、石英質砂岩、泥岩503,0001,000700
ウムルワバ層半固結堆積物新第三紀~第四紀粘土、シルト、砂岩、礫岩60,000600150
沖積層未固結堆積物第四紀泥、砂、砂礫1,000375160
基盤岩深成岩、変成岩古生代~先カンブリア亀裂や風化帯に地下水が存在する。不明
合計564,0001,9751,010

出典:”Vulnerability of Groundwater Resources of Sudan to Pollution risks, Technical report,Sudan National Committee for IHP, Khartoum, Sudan”, 2000, SNCIHP

1-5-1. 越境帯水層

図1.スーダンを含めた北アフリカの越境帯水層の分布(出典:UNESCO)

図2.スーダンの帯水層分布と地下水流動方向。番号は表2 の帯水層番号に対応する。

図1にはスーダンを含む北アフリカ周辺に存在する帯水層の分布を示した。スーダンに分布するいくつかの帯水層は、国境をまたいで地下で流動している。このように複数の国家をまたいで存在する帯水層は越境帯水層と呼ばれる。最も有名なのはヌビア砂岩中の帯水層であり、これはスーダン、チャド、リビア、エジプトの4ヶ国にわたって分布する。ヌビア砂岩の帯水層が分布する地域は、降雨に恵まれない半乾燥から乾燥地域であり、地下水が重要な水資源となっている。そのため越境帯水層の開発は、お互いの水資源を奪い合うことになり、紛争の原因にもなりかねない。このため近年、越境帯水層の開発に関して、各国協調の必要性が訴えられるようになり、国連地下水条約等で水資源の利用、開発に関するルール作りが進められている。スーダン国内の越境帯水層はヌビア砂岩層の他にもエリトリア、エチオピアと接するゲダレフ帯水層、南スーダン、中央アフリカと接するバカラ帯水層等が知られている。

越境帯水層であるヌビア砂岩の帯水層は、世界最大規模である。帯水層を構成するヌビア砂岩層は古生代から中生代にかけて、山地から供給された砕屑物(砂や礫など)が厚く堆積することにより形成された。

図2にはヌビア砂岩の帯水層の分布範囲及び、地下水流動方向を示す。この帯水層中の地下水はチャドとの国境、及びダルフールの山岳地域を涵養源として、ゆっくりと浸透し北部へ流動する。ヌビア砂岩の帯水層は数万から10万年単位で涵養されており、未開発の化石水として貯留していることが報告されている。

1-5-2. 帯水層の特徴

スーダンの帯水層は地域ごとに分類されており、それぞれの帯水層の特徴を表2に示した。ヌビア砂岩層中の自然水位はサハラ・ヌビア帯水層が10mから50mと比較的浅い。第三紀火山岩類を伴うヌビア砂岩層中の自然水位は25mから75mを示す。その他のヌビア砂岩の帯水層の最大自然水位は100mから150mと深い。ウムルワバ層の帯水層の最大自然水位は50mから70mであることが報告されている。帯水層の層厚はいずれも250mから550mの範囲であると報告されているが、これらは単層ばかりではなく、いくつかの帯水層に分かれている可能性がある。塩分濃度はヌビア砂岩からなるウムカダダ帯水層で最大18000ppmの高い値を示している。また、ウムルワバ層中の塩分濃度も最大4000ppmから5000ppmと比較的高い値が報告されている。

スーダンは11つの帯水層と地下水盆からなる。北ダルフール州一帯に分布する①サハラ・ヌビア帯水層はチャド国境付近から、ダルフール地方の山岳地域を涵養源として、北方向へ流動する。一方、ナイル川及び、その支流周辺に分布するヌビア砂岩の帯水層(②ナイル帯水層、④アトバラ帯水層、⑪青ナイル地下水盆)及び、ウムルワバ層の青ナイル地下水盆は青ナイル上流域、アトバラ川流域を涵養源とし、北部州周辺でサハラ・ヌビア帯水層と合流する。③ウムカダダ帯水層(ヌビア砂岩)はサハラ・ヌビア帯水層と同じダルフール地方の山岳地域を涵養し、南西方向へ流動しながらウムルワバ層の⑩バガラ帯水層、スッド帯水層に合流している。

出典:”Sustainable Water Resources Management, Future Demands and Adaptation Strategies in Sudan”, 2013

1-5-3. 塩水地下水

図3.スーダン中央部における塩水地下水の分布

スーダンに広大な帯水層が存在していることは既に述べた。しかしながら、これらの帯水層は様々な水質を有しており、必ずしも飲用に適している地下水ばかりではない。例えばスーダン中央部の白ナイル州からエル・ゲジーラ州にかけては塩分濃度の高い地下水が分布している。また、それぞれの帯水層は単層とは限らず、通常2層から3層の構造になっており、各層の地下水の水質も大きく異なる。スーダンでは比較的精密な水理地質図が作成されているものの、正確な帯水層の3次元分布やそれぞれの帯水層の水質特性は必ずしも解明されていない。

例えば、エル・ゲジーラ州北部のシディエラ村では、長年に亘り地下150m付近の帯水層から取水してきた。しかしながら、この帯水層は年々塩分濃度が高くなり、最終的に井戸は放棄された。この村落では専門家の提言に従い井戸を更に深く掘削し、第2帯水層から取水した結果、淡水が確保された。 このように、スーダンには高い塩分濃度のために放棄されている井戸が数多く存在している。これらの井戸は住民の飲料水としては不向きであるものの、家畜用水として活用できる井戸もある。また、将来的には耐塩性に優れた野菜(例えば、塩トマト、ホウレンソウ等)や海水魚の養殖用水としての活用も検討に値するであろう。 これまで迷惑施設として認識されてきた塩分濃度の高い井戸が有効に活用されれば、村落の生計向上に貢献することも期待できる。ただし、塩水地下水の利用に関しては常に土壌の塩類集積を考慮しなければ沙漠化に拍車がかかるために、塩水地下水の活用には注意を要する。

1-5-4. 沖積層の地下水

写真1.ガシ川堆積物分布範囲
(出典:Google Earth)

写真2.カッサラ市内を流れるガシ川
(出典:Google Earth)

ヌビア砂岩層とウムルワバ層に比べて、新しい沖積時代の堆積物も帯水層となる。主な分布範囲は青ナイル川、白ナイル川、アトバラ川、カッサラ州のガシ川沿い及び、紅海州沿岸であるが、季節河川であるワディ沿いにもわずかに認められる。

ガシ川堆積物はスーダン東部に位置するカッサラ州の州都カッサラ市から北部の町、アロマにかけて分布する(写真1,写真2参照)。これらの堆積物はガシ川により運搬された泥と砂レキの河川堆積物(沖積層)であり、基盤岩の上に厚く分布する。ボーリング調査によりカッサラ市周辺における河川堆積物の層厚は30mから60m程度とされている(図4参照)。これら河川堆積物中の砂層は豊富な地下水を蓄えることができる。このため、カッサラ市の中心地周辺では年間を通して地下水がくみ上げることができ、この貴重な水資源は上水道と農業用水に利用されている。

図4.カッサラ市周辺の模式地質断面図
(出典:Water Resources Assessment and Development program in Sudan, Netherland)

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