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スーダンの水事情

スーダンの多様な自然-アトバラ川

1-9-1. アトバラ川の概況

図1. ナイル川の縦断面図
(出典:The Hydrology of the Nile , 1999を加工 )

青ナイル川と白ナイル川はスーダンの首都ハルツームで合流後、約300㎞流下した地点に位置するナイル州のアトバラ市で最後の支流と合流する(図1参照)。このナイル川最後の支流がアトバラ川である。アトバラ川の全長は805㎞であり、青ナイル川と同じく、エチオピア側から流下する河川である。 アトバラ川の流域面積は約10万㎞²であり、ナイル川全体の流域面積(約287万㎞²)の約1/30を占める。青ナイル川の水源はエチオピア高原の標高1800mに存在するタナ湖であり、アトバラ川はこのタナ湖の北約30㎞の山麓を水源とする。図1には白ナイル川、青ナイル川およびアトバラ川の縦断面図を示した。水源からの高低差は他の二つの河川と比べ大差はあまりないが、アトバラ川が最も急勾配となっている。

1-9-2. アトバラ川の流量

写真1. ナイル川との合流地点
乾季でも比較的水量がある

写真2. 合流地点から約400㎞上流域
(2013年 1月、カッサラ州ギルバ)

図2にはそれぞれの河川の合流直前の月別の流量観測値(1961年から1990年代前半までに観測された平均値)を示す。アトバラ川は青ナイル川と似た流量の変動を示し、8月に最も多い流量となる。アトバラ川の年間流量は86億m³であり、ハルツーム付近の青ナイル川の流量280億m³の約1/3の量である。観測値から例年12月から5月にかけて、アトバラ川の流量は極端に少ないことがわかる。しかし、2009年にアトバラ川の支流であるエチオピアのタカッゼ川(スーダン国内ではシティット川と呼ばれる)上流に水力発電を目的としたTekezeダムが建設されたおかげで、現在、乾季においてもアトバラ川が涸れることは少なくなった(写真1, 写真2参照)。
一方でハルツームの南方における白ナイル川の流量は8月にやや下がるものの、年間を通じて安定した流量が観測されており、他の二つの河川の傾向と全く異なる。

図2. ナイル川の月別河川流量 観測値は( )内の期間の平均値を示す。

観測地点①(1961年-1994年)、観測地点②(1961年-1995年)、観測地点③(1961年-1995年)
(出典:The Hydrology of the Nile , 1999を加工)

1-9-3. アトバラ川の水資源の利用

(1) カッサラ州ニューハルファの灌漑地域

ナイル川との合流地点より約430㎞上流のカッサラ州ギルバには1964年に完成したKhashm el Girbaダムがある。このダム建設以前の1960年にエジプト国内のナイル川でAswan Highの建設が始まった。
ダムの建設により、多くの村々が水没することになり、エジプト国境近くの町ワディハルファから多くのヌビア民族系の住民を移住する計画が立てられた。移住先の一つであるカッサラ州のアトバラ川沿いの町は「ニューハルファ」と名付けられ、現在でも多くのヌビア系住民が暮らしている。土地を追われた人々への補償として約15万haの大灌漑地域の整備がニューハルファに計画され、Khashm el Girbaダムは農業用水の確保を主な目的として建設された。現在では用水の一部は浄水処理後、飲料水としてニューハルファの住民へ供給されている。

図3及び図4にニューハルファ灌漑スキームの位置を示す。スーダン最大の灌漑地域は青ナイル川と白ナイル川を利用したゲジーラ灌漑スキームであり、ニューハルファ灌漑スキームはそれに次ぐ、スーダン第二位の灌漑施設である。栽培作物はサトウキビ、落下生、ソルガム、小麦、野菜、綿花など多様であり、近年カッサラ州政府は綿花の生産・販売に再び力を入れようとしている。

図3. ゲジーラ灌漑スキームとニューハルファ灌漑スキームの位置関係
(出典:「Post-Conflict Environmental Assessment」 UNEP,2007)

図4. ニューハルファ灌漑スキームの範囲面積約 15万 ha
(幅約15㎞×延長距離約100㎞)(出典:Google Earth)

(2)新しいダムの建設

写真3. シティット川上流
スーダン/エチオピア国境付近

写真4. アトバラ川。流量が増え始め、濁度が高い。写真右奥は建設中のダムサイト

Khashim el Girbaダムは建設から50年以上が経過し、ダム湖の堆砂量が問題となってきた。当初確保されていたダムの貯水能力(13億m³)は半分の6億m³まで低下していることが報告されている。このような状況の下、開発の遅れたスーダン東部を支援するためにクウェートを初めとする中東諸国が中心となり、アトバラ川に新たなダムを建設し、ニューハルファ灌漑地域とほぼ同じ面積(15万ha)の灌漑地域を新たに開発するプロジェクトが計画された。Khashim el Girbaダムの上流約70㎞付近でアトバラ川の支流であるシティット川(写真3)が合流する。同プロジェクトにより、この支流との合流地点から約10㎞上流にアトバラ川とシティット川の二つの河川を堰き止めるUpper Atbara and Setitダムの建設が2010年11月に始まった(写真4、図5参照)。施工を請け負ったのは「中国長江三峡」社と「中国水力電力」社という中国の企業である。中国長江三峡社はその名の通り、三峡ダムの建設に関わった企業である。Upper Atbara and Setitダムは2016年の完成予定で灌漑用以外に上下水道、水力発電及び治水目的にも利用される。以上、説明してきた通り、アトバラ川は東部スーダンにおける重要な水資源の供給を担っている。>

図5. Upper Atbara and Setitダム建設サイト位置 (出典:DIU,2008および Google Earth)

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